私がアマゾン幹部として感じた、新規事業への嫉妬

 私自身も似たような経験があります。

 2014年、私はアマゾンでエンターテイメント事業の責任者を務めていました。そのなかにCDやDVDなど「形あるフィジカルな音楽・ 映像商品」を取り扱う商品カテゴリーが含まれていました。

 そのときに、デジタルの音楽カテゴリー責任者が急に退職することになり、音楽については、私がデジタルとフィジカル(CD)の両方のカテゴリーの責任者を務めることになりました。アマゾンでは通常、デジタルとフィジカルのカテゴリーを同じ人が兼務することはありません。しかし、当時は「プライムミュージック(プライムメンバーが無料で聞けるオンデマンド型デジタル音楽配信)」 の導入が迫っていたので、後任が決まるまでという条件で、短期ピンチヒッターとして兼務することになりました。

 そのときに初めてデジタル音楽部門の人員採用計画を知って、驚きました。売上規模でいえば当時、フィジカルなCDのほうが、デジタル音楽よりも桁違いに大きかったにもかかわらず、その年に計画された人員採用数は、デジタルのほうが大幅増員で、どちらのビジネスが主力なのかわからないと思うほどでした。それがなぜかといえば、アマゾンでは中長期的な成長を重視するという基本方針が徹底され、それを可能にするために、まだ売り上げの小さいデジタルの音楽カテゴリーを大幅増員する計画になっていたのです。

 それを知ったとき、私は一瞬「なぜ?」と思いました。しかし、次の瞬間、自分の心のなかに、成長が期待されているデジタルよりも、自分が担当してきた既存事業のフィジカルをつい優先しようとする 「大企業の落とし穴」があることを発見し、反省しました。

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