アマゾンには「イノベーション量産の方程式」がある
私がお伝えしたいのは、「アマゾンの経営マニュアル」ではなく、「アマゾンが今後も事業成長を起こし続けるために作り出した『仕組み』」であり「体系化されたメカニズム」です。
その全体像―アマゾンの「イノベーション量産の方程式」―を、最もシンプルな形式で表現すれば、下記となります。

端的にいえば、アマゾンには、シリアルアントレプレナー(連続起業家)と呼ばれる人たちが、個人の脳内でやっていることを組織的に再現する仕組みがあります。これが【ベンチャー起業家の環境】で、代表的な仕組みとしては、「PR/FAQ」というイノベーション提案フォーマットがあります。さらにアマゾンは、このようにして生まれた社内起業家に対し、【大企業のスケール】を与えることで、ベンチャー起業家よりも恵まれた環境に置きます。
しかし、それだけでは「イノベーション量産の方程式」は完成しません。大企業に特有の「イノベーションが起きにくくなる要因」を、取り除くことが必要です。それが方程式に示した【大企業の落とし穴】であり、「大企業病」といってもいいでしょう。アマゾンには「大企業病」を回避し、組織として連続してイノベーションを起こすために構築してきた仕組みがあります。
なぜ新規事業がいつも中途半端に終わるのか?
アマゾンに限らず、企業が成長すれば、陥りがちな落とし穴というものがあります。大企業でなくても、「現場ではイノベーションの芽が見えているのに、社内のしがらみのために、その芽を育てられない」という、歯がゆい場面を経験した方は少なくないと思います。
かつて稼ぎ頭であった既存事業の市場規模は年々右肩下がりである。だから自社も競合他社も、新しい成長市場に参入している。しかし、新しい市場から得られる売り上げや利益はいまだ小さく、それに対して既存事業から得られる売り上げは、減少傾向にあるとはいえ、絶対額としては大きい。そこで経営幹部は、人員を増やさないまま、既存事業と新規事業を併存させる。すると社員1人当たりの業務負荷が増え、製品やサービスの質が低下し、結果として既存事業も新規事業も中途半端なものになってしまう……。
多くの企業に見られるこの図式は、クレイトン・クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』で指摘したように、大企業が破壊的イノベーションによって存亡の危機に陥る典型的なプロセスです。
Powered by リゾーム?