私は2013年から2019年まで、アマゾンジャパンで既存事業の成長を担いつつ、新規事業の立ち上げに従事していました。在職中に、お付き合いのある日本企業の方によく尋ねられた問いがあります。

 「アマゾンでイノベーションが次々に起こるのはなぜですか」
 「どうやってイノベーションを起こしているのですか」
 「日本企業にも適用できることはありますか」

 特に日本企業において、多くの方が抱えている悩みが、これらの問いの根底にあると思います。

 このままでは将来の成長の種がない。今なんとか新しい成長事業を生み出さないといけない――。経営者だけでなく、技術者、企画やマーケティング、営業部門などでさまざまな役割を担う方々が共通して抱いている課題と焦燥でしょう。

 この問いにどう答えるか、という視点から、私は『Amazon Mechanism(アマゾン・メカニズム )― イノベーション量産の方程式』という本を著しました。「アマゾンがイノベーションを起こすメカニズム」を体系化した1冊です。

 私がこの体系化に挑むうえで糧としたのは、もちろんアマゾンで働いた経験もありますが、それだけではありません。ソニー(現ソニーグループ)で技術者としてイノベーションに挑戦し続けた経験、コンサルタントとして米国に渡り、IT企業が次々に立ち上がるシリコンバレーに身を置いた経験、米シスコシステムズで「ドッグイヤー」と呼ばれるハイスピードの成長を内側から体感した経験、日本GE(現GEジャパン)において1つの完成された大企業のメカニズムのなかで仕事をした経験――。これらの経験を踏まえて、アマゾンのなかに実践的かつ効果が高いと思われる「仕組み」「プラクティス(習慣行動)」を発見し、それらを体系化しました。

 しかし、「アマゾンがイノベーティブな会社である」というと、違和感を覚える方もいるかもしれません。

<span class="fontBold">谷 敏行<br />たに・としゆき</span><br />東京工業大学工学部卒業後、エンジニアとしてソニー(現ソニーグループ)に入社。エレキ全盛期のソニーの「自由闊達にして愉快なる理想工場」の空気に触れながら、デジタルオーディオテープレコーダーなどの開発に携わる。米ニューヨーク大学経営大学院にて経営学修士号(MBA)取得。1992年にソニー退社後、米国西海岸でIT・エレクトロニクス関連企業のコンサルティングを手掛ける(米アーサー・ディ・リトルに在籍)。その後、米シスコシステムズにて事業開発部長など歴任。日本GE(現GEジャパン)に転じた後、執行役員、営業統括本部長、専務執行役員、事業開発本部長など歴任。2013年、アマゾンジャパン入社。エンターテイメントメディア事業本部長、アマゾンアドバタイジング・カントリーマネージャーなど歴任し、2019年退社。現在は、TRAIL INC.でマネージングディレクターを務めるほか、<a href="https://dayoneinnovation.com/" target="_blank">Day One Innovation</a>代表としてイノベーション創出伴走コンサルタントとしても活動。
谷 敏行
たに・としゆき

東京工業大学工学部卒業後、エンジニアとしてソニー(現ソニーグループ)に入社。エレキ全盛期のソニーの「自由闊達にして愉快なる理想工場」の空気に触れながら、デジタルオーディオテープレコーダーなどの開発に携わる。米ニューヨーク大学経営大学院にて経営学修士号(MBA)取得。1992年にソニー退社後、米国西海岸でIT・エレクトロニクス関連企業のコンサルティングを手掛ける(米アーサー・ディ・リトルに在籍)。その後、米シスコシステムズにて事業開発部長など歴任。日本GE(現GEジャパン)に転じた後、執行役員、営業統括本部長、専務執行役員、事業開発本部長など歴任。2013年、アマゾンジャパン入社。エンターテイメントメディア事業本部長、アマゾンアドバタイジング・カントリーマネージャーなど歴任し、2019年退社。現在は、TRAIL INC.でマネージングディレクターを務めるほか、Day One Innovation代表としてイノベーション創出伴走コンサルタントとしても活動。

アマゾンの本質は「小売業の破壊者」ではない

 アマゾンという会社(米アマゾン・ドット・コム)には「小売業の破壊者」のイメージが強くあります。つまり、既存の小売業をデジタルに置き換えただけ。それを巨大な資本力によって強力に推進してきただけではないか。すなわち規模の 利益によって成長してきた企業―ー。そんなふうに思っている方も、少なからずいると思います。

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