会計・企業価値評価分野における気鋭の研究者である一橋大学大学院の野間幹晴教授をお招きしての対談、第3回は「CFO(最高財務責任者)の人材育成」をテーマに取り上げる。日本企業には真のCFOが少ないといわれて久しいが、それはどうしてなのか。真のCFOとはどんな能力を持ち、企業はどのように育てていくべきなのか。経営者であるアトラエCFOの鈴木秀和が、アカデミック界を代表する存在である野間氏と、お互いの立場から意見を交わした。

(写真:竹井 俊晴)
(写真:竹井 俊晴)

CFOに求められる役割は財務や予算管理だけではない

日本企業には真の意味でのCFOが少ないといわれていますが、どこに課題があるとお考えでしょうか。

野間幹晴・一橋大学大学院教授(以下、野間氏):日本企業とグローバル企業において、CFOの役割に大きなギャップがあります。例えば、大手会計事務所のKPMGジャパンが実施した「KPMGジャパン CFOサーベイ2021」で、日本のCFOが責任者を務める業務領域の上位に挙げられているのは「財務戦略」と「予算管理」です。「IR(投資家向け広報)」や「投資判断」「経営計画」はその下に位置しています。

 日本企業の多くは投資判断をしたり、経営計画を作成したりする部署として経営企画室を設置していますが、グローバル企業ではあまり見られません。CFOは財務や経理の担当役員で、経営には強く関与しないというのは日本独特なのです。そのため、特に海外の機関投資家から寄せられるCFOへの期待と実態が乖離(かいり)してしまっています。

 鈴木さんのようにIRや投資、経営計画といった経営の根幹にまで踏み込むCFOが増えていくことで、日本企業が変わっていくことを期待しています。

私は財務戦略は経営戦略とひもづいていないと意味がないと考えています。むしろ経営戦略を実行していく手段のうちの一つが財務戦略です。そのため、CFOは単なる財務戦略のプロフェッショナルではなく、「経営者」であることがとても重要だと思っています。機関投資家と直接対峙するときにも、CEO(最高経営責任者)や誰かの考えの伝達者ではなく、自分の言葉で経営戦略やエクイティストーリー(成長戦略)を語れるかどうかで説得力は変わってくるように思います。

野間氏:機関投資家は将来の話を聞きたいのに、CFOが過去の話だけをしていてはコミュニケーションが成り立ちません。日本企業の多くが過去、すなわち財務諸表の説明に終始し、フェアバリュー(適正価値)など将来について語るようなIRまでは行えていないのが実態ではないでしょうか。

 日本に未来を語れるCFOが少ない理由として、米経済学者のゲーリ・ベッカーのいう「企業特殊能力を育てること」に日本企業が注力してきたことや終身雇用だったことが影響していると思います。

 企業特殊能力とは、いわゆるその会社でしか通用しないスキルです。それを重視した人材育成をした結果、転職しようと思う人が生まれにくく、いざ転職しようと思ってもできず、人材マーケットが発展しませんでした。企業としては人材が外部に流出せず、特殊性を高めながら効率的に終身雇用システムを運用することができたのです。ファイナンスや経営という能力は企業特殊能力ではありませんから、企業にとってCFO人材を育成するインセンティブがなかったわけです。

 そのため、企業の内部で自社の事業について詳しい人材は育てられたけれども、CFOを育てることはできなかった。さらに、財務担当者が株式市場より銀行の方を向いていたという歴史的背景も、マーケットとの対話が上手なCFOが生まれにくかった要因だと思います。

次ページ スタートアップのCFOの課題とは