検証結果からはどんなことが読み取れるのでしょうか。

野間氏:緊急事態宣言を受けて、日本企業でもリモートワークが広がり、出社する場合でも直接的なコミュニケーションが取りづらくなりました。社員間のコミュニケーションが制限された状況下で、従業員一人ひとりがパーパスに共感し、ミッションやバリューへの理解が浸透しているようなエンゲージメントが高い企業とそうでない企業では、生産性などに大きな差が生まれたのではないでしょうか。

 今回は緊急事態宣言という特殊なイベントをトリガーとして分析を行いましたが、この傾向は平時においても発生しているのではないでしょうか。

実は、4年ほど前からエンゲージメントと業績の関係に着目し、企業や投資家にアプローチしていました。当時は「人的資本」はもちろん「非財務情報」という言葉も浸透しておらず、話に耳を傾けてもらえなかったことも多々ありました。そのため、今回の研究結果をとても感慨深く受け止めています。

野間幹晴(のま・みきはる)・一橋大学大学院 経営管理研究科 教授
野間幹晴(のま・みきはる)・一橋大学大学院 経営管理研究科 教授
1974年生まれ。一橋大学大学院商学研究科で博士号を取得。2004年10月から一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、准教授を経て19年4月より現職。(写真:竹井 俊晴)

野間氏:非財務情報の中でも、特に人的資本は注目を浴びています。企業経営における人材の重要性は言うまでもありません。さらに、投資家も企業価値の決定因子として非財務情報に着目しており、その中核要素として人的資本を位置づけています。

 しかし、人的資本をどう数値化するのか、また実際に人的資本が企業価値に影響を与えているのかについては必ずしも明らかではありませんでした。非財務情報、とりわけ人的資本が企業価値に影響を与えることを示す実証証拠を提示したという点において、本研究には大きな意味があります。

人的資本をあまりご存じでない方にも、その重要性がご理解いただけそうですね。非財務情報の重要性が高まっている背景についてはどのようにお考えですか。

野間氏:工場や設備のような有形資産に比べて、人材や技術といった無形資産の方が企業の競争力に結びつくことが多くなってきたということが挙げられます。有形資産は財務諸表に計上される財務情報ですが、無形資産は非財務情報です。

 米ニューヨーク大学のBaruch Lev(バルーク・レブ)教授らが執筆した「The End of Accounting and the Path Forward for Investors and Managers(和訳:会計の再生)」という書籍でも、財務情報の重要性が低下していることが指摘されています。

次ページ 非財務情報の開示は横比較できることで価値を発揮する