(写真:的野弘路)
(写真:的野弘路)

 世界的な物価高騰による景気後退懸念から株式市場は厳しさを増しています。特に、先行投資フェーズ(段階)で、利益の成長よりも売上高の伸びが評価される「成長銘柄」の時価総額は大幅に下落し、厳しい状況にあります。今回は私がCFO(最高財務責任者)としてこうした状況をどのように捉え、何を意識しているかについてお話ししたいと思います。

企業存続のためのキャッシュポジションを確保する

 CFOが最も注意を払わなければならないのは、キャッシュがショートしないように営業、投資、財務の観点からコントロールすることです。会社が存続するために必要なお金の流れであるキャッシュ・インフローとキャッシュ・アウトフローについて環境変化を読んで対応することが必要です。

 キャッシュ・インフローと呼ばれるお金が入ってくる流れは大きく分けると事業から生み出されるものと、外部から調達してくるものがあります。

 先行きが不透明な環境においては、事業から生み出されるキャッシュの源泉である売り上げの予測も必要に応じて迅速に検証し直す必要があります。想定よりも減少する場合には、売り上げに見合ったコストとなるよう見直さなければ、いつかはお金が底を突いてしまいます。ここで重要なのは、ワーストケースまで想定することと、しっかり仮説を立てることです。将来を読み切ることは困難ですが、具体的なシミュレーションがあれば、もし想定通りにいかなかった場合にも実態との乖離(かいり)を認識し、環境変化に応じて再度修正することができます。

 外部からの調達は、主に銀行からの借り入れと資本市場からの調達になるわけですが、調達コストや資金使途を勘案しながら選択していく必要があります。しかしながら外部環境が悪化したときには取り得る選択肢が限られることも多いので、こればかりは事業が好調なときにこそ金融機関と交渉しておくことがポイントです。

 続いて、キャッシュ・アウトフローであるコストの見直しについてです。お金を使わなければいけないことなのか、使った方がいいことなのか、使うべきではないことなのかを仕分けていきます。ポイントは「使った方がいい」に属するお金をどれだけ見直せるかです。お金を使ってでもやった方がいいことは世の中にあふれていますから、私は「今やらなくてよいことを整理する」という点に重きを置いて判断をするようにしています。

 やるべきかをどう判断するか。そこには企業や組織、または経営者個人におけるモノサシが不可欠です。私の場合はROI(Return On Investment=投資収益率、その投資でいくらの利益を生み出せるか)で考えます。何にいくらお金を使うかという判断は現場の声を集約して行いますから、私は常日ごろから社員全員にこのROIという考え方を浸透させるようにしています。

 例えば、チームメンバーが5000円のツールを導入したいと相談してきたら「それが5万円でも入れるの?」と問いかけます。たった5000円で?と思うかもしれませんが、このような思考の訓練を繰り返すことでしか、一人ひとりの意識にまで考え方を浸透させることはできないと思っています。

 ROIの考え方を組織に浸透させるのは、無駄なコストを抑えることだけでなく、必要な投資をやめないためにも重要です。コストを見直すというと、つい目先のことにとらわれ、何でもかんでも節約してしまいがち。ですが、企業価値向上に資する本当に必要な投資なのであれば、どんなタイミングであってもお金を使わないといけません。

 1円の重みを理解し、投資価値を意識した筋肉質なお金の使い方を身に付け、組織に浸透させることが景気の荒波を乗り切るためには大切だと考えています。  

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