(写真:竹井俊晴)
(写真:竹井俊晴)

それも含めて今回のガイダンスをどのように活用してもらいたいと思われますか。

石井氏:多くのスタートアップが行き詰まっているケースを見ていると、経営者が企業を中長期的に成長させるストーリーを実現するための「ファイナンス戦略」を持ち合わせていないことがよくあります。このガイダンスを読むことで、理解を深めてもらいたいですね。既に知見を持っているCFOの人たちには、折に触れて振り返るチェックリストとして使ってもらうのもいいかもしれません。

スタートアップの成長ステージに応じて検討が必要となるテーマが整理されていることに加えて、単純にまねをすると危ないところなどの注意喚起を促す仕組みにもなっています。こういうガイドラインは今までなかったですね。

石井氏:はい。委員会の中で注意喚起が必要だと指摘されたところをコメントという形で入れさせていただきました。

私もよく相談を受けるテーマなのですが、CFOに求められる資質や採用の留意点、CFOチームの形成方法、CFOのバックグラウンドと得意分野の連動性など、今までになかった切り口で重要なところが伝えられている点も面白いです。

石井氏:大きく成長するスタートアップが少ないことは日本の課題です。ユニコーンの数も足りません。大きく成長し続ける企業が次々と出てくるようになるために鍵を握っているのはまさにCFOなのです。今回のガイダンスは、役所として少し踏み込み過ぎたかなと思う部分もありますが、1つの見方としてこういうものもあるということで、考えるきっかけにしていただければと思っています。

「スタートアップ創出元年」で国全体のメインストリームに

日本政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付けていますが、今までのスタートアップ支援とはどう違うのでしょうか。

石井氏:岸田政権の目標は成長と分配の好循環です。その成長の大きな柱とされるのが、スタートアップです。国を挙げていくつもの政策を打ち出しています。

 いままでもスタートアップ支援を行ってきましたが、これほど国のメインストリームになったのは初めてのことです。霞ケ関ではあちらこちらでスタートアップが話題になっています。スタートアップを創出しようという雰囲気が政府全体に広がっていることが一番の大きな違いです。

 これまでも海外での取り組みを日本に取り入れてきました。ただ、基本的に規模が小さく、細かい議論が不足していました。アクセルの踏み込みが弱く、継続性がなかった点も指摘されていました。

日米で役所としてこれまで対応してきたことが違っていたりするのでしょうか。

石井氏:米国は民間主導に見えるかもしれませんが、実は1980年代から政府としてスタートアップの成長戦略に力を入れてきました。投資を増やす仕組みを整え、一貫して環境整備に取り組んできたのです。

 その結果が今の成長につながっています。それを今から日本でもやっていこうというのが「スタートアップ創出元年」という言葉に込められています。そこではガイダンスをはじめとした知的なインフラをまとめようという取り組みも進められています。

 スタートアップのブームは10年ごとに起こってきました。2013年ごろにも盛り上がりましたが、今回は社会課題の解消を意識している経営者が増えています。SDGs(持続可能な開発目標)は世界的な流れですから、大きなファイナンスのチャンスでもあります。スタートアップは社会的なインパクトをもたらすプレーヤーとして見られているのです。

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