「よいIPO」の定義も難しいですね。上場時の初値で見るのか、2年後、3年後の時価総額で見るのか。小さい時価総額でIPOをしてもその後数兆円規模まで成長している企業もあれば、小さ過ぎて上場してみたものの流動性が枯渇するなど、どうにもならなくなってしまう企業もあります。

石井氏:IPOを通過点として捉え、成長し続けられるか。IPOを成長の発射台にできるかどうかがポイントですね。初値や株価の関係でいうと、必要な資金が一定の規模で調達できて、株価が安定し伸びて、その上で他の資金調達手段を取り入れながら、成長し続けていく。それが「よいIPO」ではないでしょうか。

 経営者だけがメリットを得るのではなく、ステークホルダー(利害関係者)全体がよくなっていく企業が増えれば、日本の産業全体も発展していくと思います。

ステークホルダーという意味では、今回のガイドラインを作成するにあたって集まった委員はさまざまなバックグラウンドの持ち主で、経験や得意分野も違っていました

 IPOでは起業家、従業員、既存株主、アーリーステージで出資する投資家、ステージが進みIPOが見えてきたときに加わる主幹事証券や新しく株主となる機関投資家など多くのステークホルダーがいます。プロジェクトを成功させたいという思いは一緒でも、それぞれの利害関係が相反するケースも多々あります。

 今回の委員はある意味、利益相反する立場の人がいました。ガイドラインを作成するに際して、利害を超えて議論しないと成立しない。委員の人選の狙いはどのようなところにあったのでしょう。

石井氏:今回の委員は本当に豪華なメンバーでした。鈴木さんは証券会社としての立場と、上場会社のCFOを両方経験している貴重な存在なので、一番に声をかけさせていただきました。当初は少人数でIPO周りにだけフォーカスしようと考えていました。ただ、課題を考えるとIPOをさかのぼった部分だけでなく、IPO後の部分も必要になりました。そこで座組みを大きく広げていったわけです。俯瞰(ふかん)した視点からスタートアップファイナンスについて「一気通貫」した内容に取りまとめることができて、事務局としても勉強になりました。

私自身も学びがありました。お互いの利害を超えて、ステークホルダー全体がよくなっていくためのガイダンスをつくるというゴールに賛同したメンバーが多くいました。それに、活発に意見がやりとりされ、沈黙が一瞬もないくらいでした。

 結果、客観性を担保しつつ必要な情報が網羅された、充実したガイダンスになったと思っています。本ガイダンスがスタートアップファイナンスの成功と成長を後押しできる存在になればうれしいです。

 株式市場を取り巻く環境は常に変化しているので、ガイダンスもアップデートし続けていくことが必要だと考えています。

石井氏:普段は利害が相反する立場の人たちのやりとりは見ていて大変面白かったです。役所として、せっかくそういう場をつくることができたので、このコミュニティーはこれからもアップデートし続けていきたいですね。

この記事はシリーズ「鈴木秀和の「未来を創るCFO」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。