経済産業省が4月に公表した「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」がスタートアップかいわいで話題に上っている。同省はこれまでにも起業家の支援策を多く出してきた。だが、テーマをファイナンスに絞ったガイダンスの公表は恐らく初めてのこと。

 今、こうしたガイダンスがなぜ必要とされ、スタートアップの課題はどこにあるのか。策定にあたって委員を務めたアトラエの取締役CFO(最高財務責任者)の鈴木秀和が、経済産業省でスタートアップ支援活動のキーマンとして知られる経済産業政策局新規事業創造推進室長の石井芳明氏に、取り組みの真意を聞いた。

石井芳明・経済産業省 経済産業政策局 新規事業創造推進室長
石井芳明・経済産業省 経済産業政策局 新規事業創造推進室長
1965年生まれ。1987年、岡山大学法学部法学科卒業。87年に通商産業省(現:経済産業省)に入省し、中小企業・ベンチャー企業政策、産業技術政策、地域振興政策に従事。LLC/LLP法制、日本ベンチャー大賞、始動Next Innovator、J-Startupなど、各種プログラムの創設を担当。青山学院大学大学院国際政治経済学科卒、2012年に早稲田大学大学院商学研究科修了。博士(商学)。18年より内閣府でスタートアップ・エコシステム形成、オープンイノベーションの推進を担当。21年より現職(写真:竹井俊晴)

経済産業省は今年4月に「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」を発表しました。具体的なガイダンスの策定にあたり私も委員の1人として参加していましたが、官民連携でスタートアップに向けたガイダンスを発行しようとした背景には、どのような課題感があったのでしょうか。

石井芳明・経済産業政策局新規事業創造推進室長(以下、石井氏):大きく3つの課題意識がありました。まずは、起業家と投資家のファイナンスに関する知識の差を埋めることです。長年にわたってスタートアップの支援に取り組んできましたが、特にファイナンスに関する相談をよく受けました。

 ところが相談を受けた時点では、既に後戻りできない状態に陥ってしまっていることも多かったのです。中でもディープテック系のスタートアップで、研究者がファイナンスの基本的な知識がないままに起業し、途中で資金調達に行き詰まるケースが散見されました。技術的な面では優れているのに、非常にもったいない。

 2つ目は、新規株式公開(IPO)で適用できる制度を活用し切れていない、あるいは使いづらいという声に応えることです。制度やストラクチャーについて知っているかどうかで、IPO時のファイナンスで取り得る選択肢に差ができているのではという危惧があったのです。

 そして3つ目。IPOの後で成長が止まるスタートアップが多い点を問題視していました。企業としてのポテンシャルが、ファイナンスのノウハウの有無によって生かし切れていないのではないかと。成長しているスタートアップには、優秀なCFOがいて、ファイナンスやIRで企業価値の向上につなげられています。

 こうした思いから、今回のガイダンスでは、シード期からミドル期、レイター期からIPO前、そしてIPO後までを見渡して、段階ごとに課題と検討のポイントを整理して取りまとめました。

次ページ 上場後も成長できるのが「よいIPO」