(写真=的野弘路)
(写真=的野弘路)

 上場準備の過程など新規株式公開(IPO)の実現に至るまでの情報は、一定程度共有が進んでいるように思います。その一方で、上場後にどのような世界が待っているかが語られることは、まだ多くないのではないでしょうか。

 上場すると、証券会社やベンチャーキャピタル(VC)など、これまで片時も離れずにアドバイスをしてくれていた人たちがいなくなり、会社自身の力で株式市場と対峙していかなければなりません。今回は証券会社のアドバイザー時代の経験と、上場企業のCFO(最高財務責任者)として行った投資家の方々との対話から、上場後を見据えたIPO時の「フェアバリュー」追求の重要性についてお伝えしたいと思います。

 フェアバリューとは何か。あまり聞き慣れない言葉かもしれません。端的にいうと、自社の評価額が「身の丈に合った適正なものか」。自社の価値をより大きく見せるべく「背伸び」をし続ける企業もあるでしょう。ただ、いつまでも背伸びはできません。本当の姿を知ったとき、周囲はどういう反応をするでしょうか。フェアバリューを追求せずに誇張するとどのような弊害があるかなどは後で触れるとして、まずはIPO時の株価がどのように決定されていくのか(「プライシング」というプロセス)をご説明します。

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 IPO時には上場承認時に公表される「想定発行価格」、投資家からのフィードバックを反映した「仮条件価格」、そして最終的な「募集価格(公募・売り出し価格、公開価格)」と3回価格が公表されます。

 上場している会社の株価は市場環境や公表情報などに反応して日々変動していますが、IPOを行う会社は市場価格がないので、株価を探索していく作業には複雑な要素が絡み合ってきます。

 最初のステップが投資勧誘資料である目論見書などに記載される「想定発行価格」の決定です。IPOプロジェクトは長期に及ぶことが一般的で、キックオフからここにたどり着くまで早くても2~3年程度かかります。案件によってはさらに時間を要するケースもあり、私が過去に担当した中で9年かかった案件もありました。こういった背景から証券取引所から上場承認が下りた日に、SNS(交流サイト)などで1回目の「おめでとうございます!」が飛び交うのです。

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