IPOという選択肢の使い方が重要に

 当然、スタートアップにとってIPOやM&A(合併・買収)も資金調達や資本政策の有力な選択肢です。IPOに向けたステップについては次回、詳しく取り上げようと思いますが、ここではまず日本のIPOで主要となっている3つのストラクチャーについて簡単に触れておきます。

 まず、約8割の会社が選択する日本国内向けに株式を発行して上場するケースです。当社もその一つですからあえて「アトラエ方式」と言わせていただきます。次に多いのが国内と北米以外の海外向けに株式を発行する「ラクスル方式」、そして北米も含めてグローバルに株式を発行して資金を調達する「メルカリ方式」です。

 紹介した順に難易度は上がっていきます。特に北米を含めて株式を発行するためには法的整備やリスクコントロールのレベルが他の地域とは格段に違ってくるため、ハードルが極めて高く、かつては重厚長大産業以外の会社が選択するということは考えられませんでした。

 IPOの公募売り出しのストラクチャーの選択で重要なのは、企業の特徴となる要素も含めて検討できるかどうかで、CFOのデザイン力が問われることになります。ストラクチャーによっても企業価値に反映される結果は違ってきます。

 今はIPOを実現した企業が情報発信を行うなど、ノウハウの共有が進んでいますが、同じような規模の企業が同じストラクチャーを選択しても失敗してしまうケースもあります。他社と同じ選択をした方がよいのか、違うアプローチがよいのか、CFOの情報の取捨選択力と判断力がディールの成功を左右します。

 例えば最近だと、IPO時に海外の機関投資家に株主になってもらいたいと考える経営者が多いのですが、ビジネスモデルや企業によっては必ずしもその選択がディールの成功につながるわけではありません。

 確かにビジネスモデルによっては先行企業がある海外投資家のほうが業界に対する理解が浸透していたり、中長期で保有する方針の投資家が多かったりと魅力も多いです。しかしながら、個人投資家を獲得し、そこからプロダクトのファンになってもらうことで本業の顧客獲得につながる場合もあるでしょうし、中長期保有の株主ばかりになることで、流動性の低迷の一因になってしまう場合もあります。

 また、「アトラエ方式」の国内IPOであっても、当社は上場後に多くの海外機関投資家に株主になっていただいています。上場はゴールではなくスタートですから、他社の事例はあくまで事例として、IPOのタイミングでのストラクチャーだけにとらわれることなく、上場後のIR戦略も含めて自社にとってベストな選択であるかをしっかり検討することが望ましいと考えます。

 多様な情報にアクセスできるという恵まれた状況だからこそ、発行会社、上場前・後の株主、証券会社といった各プレーヤーで情報発信のしやすさが大きく異なる点に注意が必要です。限定的なケースのみを取り上げた場合があったり、立場や時点によって利害が変化したりすることがあるためです。こうした点に配慮しながら、情報の取捨選択をすることがCFOに求められているのではないでしょうか。

 また、何をもって「スモールIPO」とするかは様々な議論がありますが、否定的な意見も多い小型のIPOについて、私は決して全てを否定すべきものではないと考えます。経営にとっては選択肢を増やしておくことが最も重要ですから、IPO後の成長ストーリーが明確であり、そのタイミングでのIPOが企業価値向上を追求することになると考えるのであれば、経営判断として否定されるものではないはずです。現在時価総額数千億円や1兆円を超える企業の中にもスモールIPOでスタートした企業が存在するのも事実です。

 ただし、IR(Investor Relations:企業が株主や投資家に対し、財務状況など投資の判断に必要な情報を提供していく活動)は錬金術ではありません。CFOは、IRとは適正な企業価値(フェアバリュー)を追求する手段にすぎないことを忘れず、株式市場と向き合い、適切なコミュニケーションを図ることを常に心に留めておくべきだと考えます。

この記事はシリーズ「鈴木秀和の「未来を創るCFO」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。