ただし、よくある従業員満足度調査のように年2回だけ実施して、集計に数カ月かかるような調査では意味がありません。回答した時と集計後では状況が変わっているからです。定点観測し、リアルタイムで結果を得ることが非常に重要なのです。

 VCと共に実施している本プロジェクトは、現在10社ほどまで導入が進みました。スタートアップにおいても、エンゲージメントと業績の相関関係が見えてきました。さらに、経営環境に変化がないのに業績を伸ばしている企業とそうでない企業を比較して、エンゲージメントがどのような影響を与えているのかを検証しているところです。

 売り上げや利益を示す財務諸表は過去の企業活動が反映されたものですが、「未来を創る」ための要素は常に変化していきます。そこに大きな影響を与える人的資本などの非財務指標は「未来の財務諸表」なのです。

 これからのCFOは財務諸表だけでなく、非財務指標、つまり人的資本である組織力にも目を配る必要があるでしょう。

人的資本の可視化で企業価値は正確に測れる

 人的資本を可視化するエンゲージメントスコアを投資家と会話するための共通言語と位置付け、上場企業の企業価値を測るKPI(重要業績評価指標)の一つに加えることを提案していきたいと考えています。

 ESG(環境・社会・ガバナンス)経営においても、EとGには定量化された指標があり、比較検討する際の共通言語にもなっています。しかし、Sにはスタンダードといえる共通言語がありません。

 労働分配率や離職率といったKPIにエンゲージメントスコアを加えることで、これまで分からなかった人的資本の価値を可視化できるようになると考えています。

 そもそもテクノロジーカンパニーと製造業では財務諸表の構造も異なります。例えば、ある売上高を達成するのに、広告宣伝費が必要な企業と、設備投資が必要な企業があったとしましょう。広告宣伝費と設備投資額は同額と仮定します。

 広告宣伝費は単年度で全額費用計上されますが、設備投資は減価償却で、数年にわたって費用計上されます。損益計算書では、コストが大きく異なるように見えるのです。つまり、財務諸表を見るだけでは企業の全容を把握することはできません。

 エンゲージメントの向上はマネジメント層だけでなく、組織のメンバー全員で目指すものです。一人ひとりのメンバーが当事者意識を持ち続けることが、持続可能な成長を実現する組織の条件です。それも含めて企業経営を考えていくのが、未来を創るCFOの役割なのです。

この記事はシリーズ「鈴木秀和の「未来を創るCFO」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。