協調戦略を実践する4つの類型

 以上述べてきた2つの選択肢、すなわちバリューチェーンへの機能の組み込み方とバリューチェーンの機能の代替か追加かという軸を組み合わせると、図表1のようになる。

図表1 「協調戦略」の4類型
図表1 「協調戦略」の4類型
(注)VCはバリューチェーン
(出所)『競争しない競争戦略 改訂版』250ページ
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 まず、①のコンピタンス・プロバイダーは、競合企業とは競争するバリューチェーンを持ちながらも、自社のコア・コンピタンスとなっている機能に関しては競合企業から積極的に受託し、そこで利益を上げていく戦略である。

 例えばGEは、航空機エンジンに関して、ロールス・ロイス、プラット・アンド・ホイットニーの2社と競合するが、これら2社のメンテナンス事業も受けており、航空機エンジンのメンテナンス事業では寡占を作っている。

 次に、②のレイヤー・マスターは、競合企業の一部の機能を代替し、そこで寡占を作ろうとする戦略である。セブン銀行はATMに特化した銀行であり、613社の金融機関等とATMの提携を行い(2021年3月31日現在)、他行のキャッシュカードで現金を引き出すときの手数料で売上を上げている。

 また、③のマーケット・メーカーは、相手企業のバリューチェーンの中に新たな機能で入り込み、相手企業と協調しながら市場を形成していくプラットフォームを作る戦略である。特に、中小企業は取引相手を見つけることが課題であり、そこに市場形成機能を持つ企業として参入するケースが多い。

 前述した楽天バスサービスは、高速バスの切符のネット販売という新たな機能を提供することによって、販売力が弱い中小のバス会社と、安価に移動したい消費者とをマッチングしている。

 最後に④のバンドラーは、新たな機能を追加する上で、競合品も自社の製品ラインに入れることによって顧客価値を高め、同時にそれによって同種の競合の参入障壁を高める戦略である。例えばオフィスグリコは、他社品を自社の菓子ボックスに同梱することによって、いったんオフィスグリコを設置した企業が、他メーカーの同種サービスにスイッチする必要性を減らしている。

 以上、連載を5回続けてきたが、「競争しない競争戦略」は、決して逃げる消極的な戦略ではない。むしろ、リーダー企業ができないことを徹底的に分析し、戦わずして利益率を高めていく戦略と言える。その結果として、低迷を続ける日本企業の利益率が向上していくことを期待したい。

85の成功事例から見えた不変の法則
ロングセラーを大幅加筆してリニューアル!

 いかにして競争せず、自社の独自性を貫くか。そのための戦略を「ニッチ戦略」「不協和戦略」「協調戦略」の3つに整理して解説。DX(デジタルトランスフォーメーション)やSDGs(持続可能な開発目標)、コロナ禍といった企業を取り巻く環境が激変する中でも、利益率を高める不変の法則を明らかにする。

 好評だったロングセラーの改訂に当たり、企業事例を中心に大幅加筆。有名な企業だけではなく、知られざる中小企業の成功事例も数多く取り上げ、様々な業種、様々な規模の企業のビジネスパーソンが実践できる内容だ。

山田英夫(著) 日本経済新聞出版 2200円(税込み)

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