①質的限定の「ニッチ戦略」

・技術ニッチ

 文字通り、リーダー企業も追随できないユニークな技術で、限られた市場で圧倒的強みを発揮する戦略である。

 手術用の縫合針などを製造するマニーが典型例である。彼らは、世界一の品質の製品しか出さず、年間世界市場5,000億円以下の市場しか狙わず、そこでは大手企業も追随できない高技術の製品で存在感を示している。

 また、印刷業界には、大日本印刷、凸版印刷という巨人がいるが、プロネクサスは、ディスクロージャー関連の印刷で圧倒的強みを持っている。同社は、有価証券報告書の作成などの川上工程にまで入り込み、顧客が入力した数字を電子データの方式に変換し、正確かつ迅速に報告書を印刷する仕組みを作り上げた。さらに、国際会計基準ともひもづけた書類作成システムを確立しており、この分野では大手の追随を許していない。

・チャネル・ニッチ

 リーダー企業でも追随できないチャネルを押さえ、そのチャネルを通じて限られた市場の寡占を作る戦略である。

 大同生命保険は、生命保険業界では中堅だが、中小企業の経営者への死亡保険では圧倒している。それは、税理士団体と提携し、中小企業の経営者へのチャネルを押さえているからだ。製品も一般人向けの定期付終身保険ではなく、在任中のリスクに備え、法人を受取人とする定期保険が中心であり、大手生保でもこの牙城を崩すのは容易ではない。

・特殊ニーズ・ニッチ

 特殊なニーズに対応した製品・サービスにより、限られた市場を獲得する戦略である。

 朝日印刷は、医薬品包材の印刷で他社を寄せ付けない強みを発揮している。医薬品の表示は薬機法により細かい規定があり、それを順守するだけでも大変である。制度改正も度々あり、それにも対応しなくてはならない。朝日印刷は、それができる数少ない企業である。

②量的限定の「ニッチ戦略」

・空間ニッチ

 限られたエリアだけを事象領域とし、そこではリーダー企業でもシェアを取れない状況にする戦略である。

 コンビニのセイコーマートが代表例で、北海道では業界トップのセブン-イレブンも寄せ付けない。北海道の地理的条件を考慮した店内調理のホットシェフも、店の手数はかかるが、直営店の多いセイコーマートならではの戦略である(フランチャイズが多いセブン-イレブンでは、手数のかかる店内調理はやりにくい)。

・ボリューム・ニッチ

 リーダー企業が参入するには小さすぎる市場で、圧倒的な地位を築く戦略である。

 スポーツ用品におけるタマス(卓球ラケット)、三英(卓球台)、セノー(運動機器)、ミカサ(バレーボール)などは、市場規模が野球やランニングほど大きくなく、アシックスやミズノなどの大手が参入してこない市場で寡占を維持している。

・残存ニッチ

 製品ライフサイクルの衰退期で、大手が撤退した後に利益を追求する戦略である。レコード生産の東洋化成、レコード針のナガオカ、ボウリング・ボールの日本ヱボナイトなどが典型例である。

・限定ニッチ

 生産・供給量を意図的に抑えることによって、希少価値を高め、利益を追求する戦略である。ボリューム・ニッチとの違いは、あえて供給量をコントロールし、市場規模を一定にとどめている点にある。

 アウトドア・ファッションの高級品にしか素材を提供していないゴアテックス(日本ゴア)などが典型例である。

スポーツ用品では専門メーカーが市場を寡占しているケースがある(写真:dwphotos/shutterstock.com)
スポーツ用品では専門メーカーが市場を寡占しているケースがある(写真:dwphotos/shutterstock.com)

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