自分自身のレッテルから自由になろう

 また「記号」に関しては、「場所」だけでなく他でもない自分自身につけられているレッテルのようなものもあります。会社を経営している人であれば「社長」というレッテルが日常の中のかなりの部分を占めているかもしれませんし、子どもの頃からずっと同じ場所に住んでいるとしたら「小さな頃からワガママ」なんていうラベルを貼られているかもしれません。

 人にはそれぞれに名前、肩書、人格、縁戚関係……などついて回るものがあります。

 たとえば、周囲が気を使って誰も本音を言ってくれなくなったとある経営者が、コーチングの先生に相談したところ、「生まれ故郷に行って、同級生と話しながら食事でもしておいで」とアドバイスされたという話を聞いたことがあります。そのエピソードに触れたとき、コーチの鋭さに感心しました。「場所」を離れることが、同時にその人について回る「社長」というラベルからの解放にもなっていたからです。

 『働くことの人類学』(黒鳥社)という本の中に、面白い指摘があります。それは、定住的な農耕社会には呪術が多いけれど、遊動的な暮らしをする牧畜民には相対的に呪術が少ないという話です。定住して固定された空間に固定されたメンバーで住み続けていると、まわりに嫌な人がいても感情を押し込めて我慢しながらうまくやっていかざるをえません。そうすると、負の感情が心に沈殿して、それが呪いの形で表出するからではないか、という考察です。

 一方、牧畜民のように移動ができれば、関係が険しくなれば物理的に離れてしまえばいいので、負の感情が溜(た)まることがありません。

 「場所」を移動することが、人間関係の調整にも効くという話には、頷(うなず)く人も多いのではないでしょうか。「住む場所を変える」「働く場所を変える」には、人間関係をはじめ、今の自分について回るものを一度リセットする機能があります。

 「場所」を変えるというと、どうしても物理的にどのくらい離れるかの「距離」に意識がいきがちですが、普段自分の中にまとわりついている様々な「記号」のようなものから離れる機会とも捉え直すことができるのです。

(写真:Monster Ztudio/Shutterstock.com)
(写真:Monster Ztudio/Shutterstock.com)

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