2050年のカーボンニュートラルに向け、日本でもあらゆる産業界が脱炭素社会の実現に動き始めている。世界各国の投資が「グリーンリカバリー」「グリーン成長」に傾いており、脱炭素に貢献する戦略や取り組みが見られない企業は今後、経済圏から淘汰されかねない。一方で、ゼロカーボンを実現するための仕組みを世界中の企業が必要とする中で、クリーンエネルギーなどの技術や脱炭素を支援するサービスなど、さまざまな領域で商機が生まれている。

 日経ビジネスLIVEでは、2021年11月~12月に「ゼロカーボノミクスを勝ち抜く経営ビジョン~日本企業はどう取り組むべきか~」と題するウェビナーシリーズを開催した。

 Day1の11月25日には、川崎重工業の西村元彦氏と経済産業省の奈須野太氏が、「日本が勝つための脱炭素ルールメイキング ~技術でリードし、市場で負けないために~」をテーマに語り合った。収録したアーカイブ動画とともにお伝えする。(構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります)

吉岡陽・日経ビジネス副編集長(以下、吉岡): 世界は今、産業構造が大きく転換して、さまざまな分野で新しい市場が立ち上がる脱炭素時代に突入しました。これからの国際競争の中で、日本の産業界が勝ち残っていくためには、脱炭素に向けた新たな制度や規制の策定、あるいは新技術の国際標準化といったルールメイキングで主導権を握ることが欠かせません。

 過去には、技術面では日本がせっかく世界をリードしていたにもかかわらず、実際の市場競争では後れを取ってしまう例が目立ちました。脱炭素時代に同じ轍(てつ)を踏まないためには、企業はどのような視点に立ち、何をすればよいのでしょうか。皆さんと考えてみたいと思います。

 それでは、経済産業省の奈須野太さんと川崎重工業の西村元彦さんに講演していただきます。

奈須野太・経済産業省 産業技術環境局長(以下、奈須野氏):従来のルール形成は、ISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議) のような技術標準が注目されていました。ただし脱炭素というテーマでいうと、技術標準はもちろんのこと、ファイナンスに関するルールや通商ルールを組み合わせて、市場の優位性を獲得していくのが実態です。

 具体的には、政府や国家間、標準化機関における合意によって制定される公的ルール「デジュール型」。企業グループや専門家群の合意で制定される緩やかな共通ルール「フォーラム型」。特定企業の製品やサービスが世界中に普及する中で生まれる事実上のスタンダードルール「デファクト型」などがあります。近年では、さまざまなルール形成が行われています。

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失敗から学ぶ、日本のルール形成戦略

 いきなり失敗事例から入ります。冷蔵庫の国際基準を巡って、日本が失敗した事例です。冷蔵庫の冷却方式には、直接冷却と間接冷却の2種類があります。直接冷却とは、冷媒管を通じて食品を直接冷やす仕組みで、欧州で主流になっています。一方で間接冷却は、冷媒から直接ではなく、冷たい空気を冷蔵庫に流して冷やす仕組みです。

 実のところ、この間接冷却の方が温度管理には適しておりまして、本来ならば高温多湿な地域で省エネ性と機能性を両立できる日本製冷蔵庫は、高く評価されてもおかしくありませんでした。しかし、冷蔵庫の評価方法が、欧州の冷蔵庫(冷却方式)を前提に開発されてきた歴史があるため、日本製冷蔵庫は低い評価になってしまう。その結果、日本製冷蔵庫は、東南アジア諸国連合(ASEAN)市場で売れ行きが伸び悩んでしまったのです。

 このような失敗を繰り返さないようにしなくてはなりません。失敗経験をポジティブに捉え、ルール形成に取り組む3つの意義を挙げてみたいと思います。

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