2050年のカーボンニュートラルに向け、日本でもあらゆる産業界が脱炭素社会の実現に動き始めている。世界各国の投資が「グリーンリカバリー」「グリーン成長」に傾いており、脱炭素に貢献する戦略や取り組みが見られない企業は今後、経済圏から淘汰されかねない。一方で、カーボンゼロを実現するための仕組みを世界中の企業が必要とする中で、クリーンエネルギーなどの技術や脱炭素を支援するサービスなど、様々な領域で商機が生まれている。
日経ビジネスLIVEでは、2021年11月~12月にかけて「ゼロカーボノミクスを勝ち抜く経営ビジョン~日本企業はどう取り組むべきか~」と題するウェビナーシリーズを開催した。
Day1となる11月25日には、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授が登壇。「COP26から見えた脱炭素・日本の立ち位置と進路」をテーマに、世界が目指す脱炭素の目標や各国の状況、そして日本企業はどのように経済活動を考えるべきかについて語っていただいた。収録したアーカイブ動画とともにお伝えする。(構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります)。

細田孝宏・日経ビジネスLIVE編集長(モデレーター、以下、細田):2021年11月に英国のグラスゴーで、気候変動について話し合う国際会議、COP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)が開催されました。今回はCOP26の総括も含めまして、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授にお話を伺います。高村先生はCOPには毎回のように参加していらっしゃいますが、今回は今までのCOPと比べて、盛り上がり方に違いは見られましたか。
高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授(以下、高村氏):ちょうど2年前に開かれたCOP25と比べると、ゼロカーボンが当たり前の目標になってきたという流れを強く感じました。これは各国の発言や目標だけではなくて、参加されている多くの企業や金融、投資家の皆さんを見ていても感じましたね。
細田:やはり喫緊な課題であるという認識が広がってきているのだろうと思います。地球温暖化の議論そのものは長らく続いてきたわけですが、その中でも2021年はどういう年だと位置付けられるとお考えですか。
高村氏:2021年は気候変動が大きな関心を集める年だと言われてきました。ゼロカーボン、カーボンニュートラルへの動きが顕著になる中で、米国ではバイデン政権が誕生し、気候変動対策に非常に大きなプライオリティーを置いてきました。その結果、4月にはバイデン大統領自らが主催する気候変動サミットが開催されました。そこに向けて先進国が、「2050年カーボンニュートラル」と整合するような30年目標を示したのです。
今回のCOP26は、感染症拡大の中で開催する初めての大きな会議でした。本来だったら「対面でやるべきではない」という議論が起きてもおかしくなかったのですが、世界的に異常な気象現象や気象災害に対する危機感が強まっていたのです。こうした背景から、感染症拡大の中でも、対面による本格的な交渉が行われたというわけです。
また、外交上はバイデン政権が誕生してから初めてのCOP。さらには英国がEU離脱後に初めて多数国間の会議を開催するという意味でも、注目された会議だったと思います。
COP26は大きな成功を遂げた会議だった
細田:世界中から開催地に集まった若者たちが「COP26は失敗だ」と声を上げ、大規模なデモが行われたことも話題になりました。一言で言うのは難しいかもしれませんが、今回の会議をどのように評価していますか。
高村氏:確かに評価は分かれますが、それは評価の基準軸がどこにあるかだと思います。そもそも、国際交渉の中でも特に気候変動に関するものは、196の国と地域が集まって皆が合意しなければなりませんから、合意内容は最低限のものになりがちです。今回の交渉全体を、そういった多数間交渉という基準から見ますと、私はかなり大きな成功を遂げたと思います。
例えば、気温上昇を1.5℃にとどめるという目標に向けて、本気で取り組むことを確認する。COPの会場の中でも、各国が様々な目標の引き上げの意思を表明する。それが結果的に、交渉上の課題になっていた全体の排出削減の引き上げにつながっていく。そういった流れをつくりだしていましたから、私は総体として成功だったと評価しています。
細田:石炭火力発電については、合意文書の当初案にあった、段階的に「廃止」ではなく「削減」という言葉で決着しました。この点について、どのような見方をしていますか。
高村氏:実はもともとの議長案も、段階的廃止を各国に強く求めるほどの文言にはなっていなくて、「廃止に向けての対策を加速するよう要請する」というくだりから始まっているんです。もちろん、エネルギー起源の温室効果ガスやCO2は気候変動に最も大きく影響する要因ですから、特に電力分野の石炭火力をどうするかは大きな課題です。
そこで今回、交渉上初めて、「石炭火力を段階的に削減していく」という合意ができました。今までは合意文書に「削減」という言葉は入っていなかったんです。その点で今回は非常に画期的であり、歴史的な会議だったと思います。
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