前回、2021年7月に米IBMの量子コンピューター「IBM Quantum System One(以下System One)」が川崎市に設置されたことを紹介しました。

 実は米国ではSystem Oneはすでに商用稼働しており、クラウド上で利用可能です。ところが、世界中の企業からアクセスが集中するため利用に順番待ちが発生し、自由に使えるとはいえない状況のようです。

 こうした中で、川崎に設置されたSystem Oneは、東京大学が専有使用権を持ち、日本の企業や研究機関が独占的に利用できます。これは日本の量子コンピューター研究にとって画期的な出来事だといえるでしょう。

 量子コンピューターはその名の通り、その動作原理は量子力学に基づいています。従来のコンピューターは、「0」と「1」の2つの状態を使って論理演算を行い、様々な問題を解いています。

 一方、量子コンピューターは「0」と「1」の2つの状態を同時に取れるという量子の「重ね合わせ」という性質を用います。このため、量子コンピューターは、従来のコンピューターでは総当たりで計算していた膨大な組み合わせの計算を、一度に処理できるのです。

 2011年、カナダのD-Wave Systemsが「世界初の商用量子コンピューター」を発表。米グーグルや米航空宇宙局(NASA)などが導入し、話題となりました。このニュースを覚えている人は「もう量子コンピューターは10年前にできているじゃないか」と思うかもしれませんが、実はこのマシンは「アニーリング型」というタイプ。多数の選択肢の中から最善を求める「組み合わせ最適化問題」に特化した、いわば専用機です。

 一方で、量子コンピューターの本命と目されているのが「ゲート型」と呼ばれる方式で、幅広い問題の解決に汎用的に使えます。従来のスーパーコンピューターでは対応できない複雑な計算が可能で、幅広い分野で革命を起こせると期待されていますが、現時点では解決すべき課題がいくつも残されています。実用化に向け、IBM、グーグルや米インテルなど多くの企業が研究を進めています。

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