量子コンピューターが実用化されれば、開発スピードはさらに上がり、もしかしたら新型ウイルスが本格的に流行する前にワクチンが作れるようになるかもしれません。「静的な問題解決」は、創薬だけでなく、素材開発や化合物の開発などにも大きな変化をもたらします。

 従来よりも、はるかに軽くて強くて安い新素材がどんどん出てくる。あるいは、圧倒的にエネルギー密度が高いバッテリーが登場する。そうなれば、手ごろな価格の空飛ぶクルマが登場し、一気に普及するかもしれません。いくつかの分野でグラウンドブレイキングな技術が登場すると、私たちのビジネスや暮らしも一変します。

 量子コンピューターによる素材開発で、太陽光発電に使うソーラーパネルの性能も劇的に向上するかもしれません。現状は、ソーラーパネルのエネルギー変換効率は15~20%程度で、さらに送電時にその半分を失ってしまいます。もしソーラーパネルの発電効率が40%になれば、電気代は半分になります。さらに送電効率が倍になる素材が見つかれば、電気代は4分の1になる。そしてエネルギー問題も大きく解決に向かうでしょう。

 こういった「静的な問題解決」の後に登場するのが、「動的な問題解決」です。

 例えばソーラーパネルで発電した電気を、どこに送るのか。送電は短ければ短いほど効率が上がりますから、必要としている場所に必要な分だけ送ることで、エネルギー効率を大きく向上させることができます。街の中を自動運転で走る電気自動車のバッテリー残量を見ながら、最適なタイミングで給電ステーションに電気を供給できるようになるかもしれません。

 「動的問題解決」ができるようになると、あらゆるものが「安く」「早く」「快適」に変わっていきます。例えば、バスを例に考えてみましょう。現在は、スマホでバスの時刻表や現在位置を見て、バス停に行く時代です。動的な最適化ができるようになればさらに一歩進み、バスに乗りたい人の位置や目的地をもとに、バス停の場所や走行ルートを決めるようになるかもしれません。そうなれば、誰もが行きたいところに早く安く行くことができ、バスも常に満席に近い状態で走らせることができます。つまり「個人の快適さ」と、「地球に優しい」を両立できるのです。

 モノの配送も、こういう順番で回ればベスト、というルートの最適化をリアルタイムで行うことができます。誰がいつ、何を注文するのかという予測の精度が上がれば、ユーザーが注文する前に荷物を近くまで運んでおくことも可能です。実際、米アマゾン・ドット・コムは、飛行船型の空中倉庫に商品をストックし、ユーザーが注文した瞬間にドローンで配送するという技術の特許を申請しています。

2年後には1000量子ビットを目指す

 さて、量子時代は、まるで夢のような未来にも見えますが、ビジネスパーソンとして忘れてはならないのは、「誰がこの未来を実現するのか」です。量子コンピューターの圧倒的なパワーをいち早く活用したプレーヤーが、ライバルに圧倒的な差を付ける。あらゆる分野のビジネスパーソンが、いずれそんな時代に直面することになるのです。

 21年に川崎に設置されたIBMのSystem Oneは、27量子ビットの計算能力を持っています。IBMは、わずか2年後の2023年末までには、これを1000量子ビット超まで増やすと発表しています。

 絶対零度近くまで冷却しなくてはならない量子コンピューターを安定稼働させ、そのポテンシャルを活用しきるには、まだまだいくつものハードルを越えなくてはなりません。それでも、IBMが掲げる高い目標を見ると、そう遠い未来の話でもなさそうです。

 そして量子コンピューターの分野において、日本は大きな強みを持っています。次回は、そんな日本の持つ優位性について見ていきましょう。

この記事はシリーズ「尾原和啓の「量子時代のビジネス思考」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。

ウェビナー開催 西口一希氏とミスミに学ぶ 会社を成長させる「顧客理解」

 これまで約40社の経営を支援してきたStrategy Partners代表の西口一希氏。「成長の壁」に悩む多くの経営者に対して「企業の成長に伴い、顧客よりも財務の数字や組織運営に関心を向けてしまう問題」の大きさを指摘してきました。
 日経ビジネスLIVEでは、成長の壁に悩む経営者や事業責任者、さらに現場で取り組む層に向け、西口氏が『顧客起点の経営』について語るウェビナーを2週連続で開催します。ぜひご参加ください。


■第1回:2022年7月5日(火)19:00~20:00(予定)
■テーマ:なぜ企業の成長は止まるのか? すべてのカギを握る顧客理解
■講師:『顧客起点の経営』著者・Strategy Partners代表 西口一希氏

■第2回:2022年7月12日(火)19:00~20:00(予定)
■テーマ:顧客を分析、ニーズに対応して急成長 ミスミ「meviy(メビ―)」事業に学ぶ
■講師:西口一希氏、ミスミグループ本社 常務執行役員meviy事業担当・ID企業体社長 吉田光伸氏

■会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
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