では、私たちのビジネスや暮らしは量子技術によってどう変わるのでしょうか。実は、私たちは最近、大きな変化を経験しています。それはスマートフォンの登場です。スマホがなかった時代のビジネスと、スマホ以後のビジネスはまったく変わりました。

 例えば、レストランを探すときをイメージしてください。40代以上のビジネスパーソンなら共感してもらえると思いますが、昔は「日本料理を食べたいから赤坂にでも行こうか」という具合にお店を探していましたよね。ところが、「乗換案内」と「食べログ」が登場して、人々のレストランの探し方は一変しました。よく知らない駅の、駅から遠い隠れ家レストランでおいしいものを食べられるようになったのです。

 レストラン側から見ると、「乗換案内」と「食べログ」がお客さんを案内してくれるから、そこまで立地を気にする必要がありません。安心しておいしい料理を作ることに専念できるわけです。こうして、従来は考えられないような場所にレストランを出すというゲームチェンジが起きました。

 この変化は15年くらいかけてゆっくり進行したので、気付いている人は多くないかもしれません。でも15年前に、よく知らない場所にある隠れ家レストランを気軽に訪れることなど、考えられなかったのではないでしょうか。

 量子コンピューターが実用化されれば、このレベルのゲームチェンジが、エネルギー、移動インフラ、創薬や素材など、あらゆる分野で同時多発的に起こり始めます。すると、ひとつの分野の変化が他分野にも影響し、世の中が「かけ算」で変わっていきます。私たちは、そういう破壊的な変化に備えておく必要があるのです。

量子コンピューターがもたらす、2つの最適化

 量子コンピューターは、分野によっては従来のコンピューターとは比べものにならないほどの圧倒的な速度で計算できるようになります。そのひとつが「最適化」です。これまで、計算能力の限界により物事を単純化していたようなケースでも、すべての条件を考慮した「本当の最適化」ができる世界が到来します。

 最適化には、1回計算することで世の中に大きなインパクトを与える「静的な問題解決」と、そのとき起こっている状況に対して継続的に最適化をかけていく「動的な問題解決」の2種類があります。

 量子コンピューターが最初に力を発揮し始めるのは、「静的な問題解決」でしょう。例えば、創薬分野です。新型コロナウイルスのワクチン開発では、メッセンジャーRNAの解析のためにスーパーコンピューターをフル稼働させました。その計算能力のおかげで、20年近く前に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)のときは3カ月かかった解析をわずか1カ月で終わらせ、たった9カ月でワクチンの完成にこぎ着けました。

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