2021年7月、神奈川県川崎市にある「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター」で、1台のコンピューターが動き始めました。私もその場で見学したのですが、空調完備の専用の部屋の中に、1辺3メートルはあろうかというガラス製の箱が設置され、その中に表面が鏡のように磨かれた円筒がつり下げられています。まるでSF映画の1シーンに出てきそうな空間でした。

「IBM Quantum System One」が2021年7月、神奈川県川崎市の「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター」に設置された。米国外の設置はドイツに次いで2カ国目となる(写真=的野弘路)
「IBM Quantum System One」が2021年7月、神奈川県川崎市の「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター」に設置された。米国外の設置はドイツに次いで2カ国目となる(写真=的野弘路)

 ここに設置されたコンピューター名は 「IBM Quantum System One(以下System One)」。米IBMが開発した、世界最高レベルの商用の量子コンピューターです。実は、IBMの量子コンピューターが米国外に設置されるのは、ドイツに次いで2カ国目。東京大学が占有使用権を持ち、企業や公的団体、大学などの研究機関と活用していきます。

 さらに画期的なことがあります。東大浅野キャンパス内に「量子コンピューター・ハードウェア・テストセンター」が設置されたのです。ここには部品や周辺機器を試験するための量子システム・テストベッドが設置され、量子コンピューターのハードウエアを研究することができます。IBMが量子コンピューターの試験環境を社外に設置するのは世界初のことで、材料や装置、部品といった日本の高度なものづくり技術に期待してのことのようです。

 量子コンピューターに関するニュースは、さらに続きます。21年9月、東芝や日立、富士通、NECといった量子技術分野に携わる24社による「量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)」が発足したのです。IBMやGoogleといった米国企業がこの分野をリードする中、「量子技術イノベーション立国」を目指してオールジャパン体制で研究開発を加速し、産業を生み出していこうという動きです。

 量子コンピューターの実用化は2030年から2050年と見られていましたが、現在の開発状況を見ると急激に加速しており、もっと早い段階で量子時代が到来してもおかしくありません。現時点で、いつごろ量子コンピューターが私たちのビジネスや暮らしに影響を与え始めるのかは、はっきりと見通せていません。ただし、ほとんどの専門家の意見が一致しているのは、「量子技術による変化は、将来のある時点で急激に到来する」ということです。

 では私たちはビジネスパーソンとして、この変化にどう対応すればいいのでしょうか。本連載では、量子コンピューターや周辺技術をさまざまな角度から眺めながら、きたるべき「量子時代」に向け、どんな考え方やスキルを身につけ、どのように備えておくべきかを探ります。

あらゆる産業にゲームチェンジが起こる

 量子コンピューターは、私たちのビジネスやライフスタイルを根底から変える、「グラウンドブレイキング(革新的な)」な技術。実用化されたら、ほぼすべての産業がいや応なしにゲームチェンジを強いられるでしょう。

 そしてひとたびゲームチェンジが起きたら、最初に量子コンピューターの力を活用できたプレーヤーが、圧倒的な競争力を持ってライバルを引き離していくことになります。先行者だけが、まさに指数関数的な成長を手にします。だからこそ量子時代に今からしっかり備え、そのときがきたら、いち早く活用できるようにしておくことが重要です。ビジネスパーソンとしては、量子コンピューターによってビジネスや暮らしに起き得る変化を理解し、先回りして備えることが大切です。

続きを読む 2/3 量子コンピューターがもたらす、2つの最適化

この記事はシリーズ「尾原和啓の「量子時代のビジネス思考」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。