
1983年神戸大学経営学部卒。同年ネスレ日本入社、各種ブランドマネジャーなどを経て、ネスレコンフェクショナリーのマーケティング本部長として「キットカット」受験応援キャンペーンを手がける。2010年ネスレ日本代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)に就任。「ネスカフェアンバサダー」で日本マーケティング大賞受賞。20年3月ネスレ日本を退社し現職。
イノベーションとは、顧客が問題だと気が付いていない新たな問題を解決すること。一方のリノベーションは、顧客がすでに気が付いている、つまり既知の問題を解決したり、より効率的にしたりすることです。
例えばテレビという、誰でも手軽に映像を見ることができる装置を初めてつくったのなら、それはイノベーションです。でも白黒テレビをカラー化したとか、スピーカーの音を良くしたとか、液晶パネルの画素数を多くしたといったことは、イノベーションとは呼ばず、リノベーションだということになります。
クリステンセンは、破壊的なイノベーションが起こった後には何十年も連続してサステナブルなイノベーションが起こると言っていました。これをネスレではリノベーションと表現している、ということです。
本当のイノベーションとは
この視点で、イノベーティブだといわれている企業や製品、サービスを見てみると、どれが本当のイノベーションなのか、どれがリノベーションにすぎないのかという判断がつきやすくなります。
ただ、ネスレはイノベーションやリノベーションという言葉は以前から使っているのですが、その定義はあまり明確ではありませんでした。
ある時、僕はネスレ本社で役員会に出席していて、配布資料に記載されている新規事業がイノベーションとリノベーションに区分けされているのに気づき、手を挙げて、両者の違いについて質問したのですが、明確な説明が出てこなかったんです。
ネスレですらイノベーションの定義は明確ではなかった。これは20世紀の大半は、ほとんどがリノベーションの時代だったということと無縁ではありません。
自動車にしろ飛行機にしろ、20世紀初頭にはもう形が出来上がっていた技術です。もちろん技術改良はありましたが、企業は一度出来た製品や技術をリノベーションすれば“食べていけた”時代だったのです。
20世紀に日本で生まれた代表的なイノベーションは、やはりSONYの「ウォークマン」でしょう。その当時、音楽は部屋の中で、静かなところでしか聴けないと諦めていた問題を、屋外で歩きながらでも音楽を聴けるように解決したからです。
21世紀に入ってから、現時点で僕が注目しているのはメルカリです。日本発のメルカリが世界に広がる可能性が高いと思うのは、中古品を売り買いすることで「もったいない」のに消費せずに捨てていたという問題を解決したからです。これは、まさにサステイナビリティー時代のイノベーションだと言えるでしょう。
コロナ禍によって、高齢者もスマートフォンを使ってEC(電子商取引)を利用するようになりましたね。この2年の間には不幸なことが多くありましたが、こうした変化については、前向きに見ないといけない。アフターコロナでも、こうした変化を逆戻りさせずに前に進めていく。これもプロ経営者の役割だと思っています。
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