当時僕は、ブラベックがこの新しい支援制度を発表するのを聞いて、「なるほど、一流のプロ経営者は、このように新しいコンセプトを考え出し、社会問題を自社の課題として捉え、その解決にも乗り出すのか」と感銘を受けました。

 現在では多くの人が知るCSVは、(米ハーバード・ビジネススクール教授の)マイケル・E・ポーターが提唱したことになっています。でも実は、ブラベックが仲の良かったポーターに連絡して、「(ダボス会議で自分が発表した)この概念をもっと世界に広めてくれ」と依頼。それがきっかけになって、ポーターが米ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)に寄稿したという経緯があります。

一周遅れの古い情報

 こうしてCSVが広く世界に認知されるようになった。すると今度は国連が、「CSVを評価する軸が必要だ」として、SDGsができたのです。

 この一連のストーリーを知っている人は、日本では経営者の中にもほとんどいないでしょう。以前、経済同友会でこの話をしたら、皆さん「えー」と驚いていましたから。

 コトラーやポーターなど学者の理論の基になっているのは、現実のビジネスの動きです。彼らの分析に学ぶところは多いのですが、一方で本に書いてあるのは一周、二周遅れの古い情報だということを、きちんと理解する必要があります。

 本に書いてあることを単にありがたがるのではなく、ブラベックのように自らが考えたイノベーションで世の中を動かすようでなくては、本当の意味でのプロ経営者とは言えません。

 1997年に米ハーバード・ビジネススクール教授だったクレイトン・クリステンセンが書いた『The Innovator's Dilemma』(邦題:イノベーションのジレンマ)。おそらく日経ビジネスの読者なら、このベストセラーのことをご存じでしょう。

 クリステンセンはこの本で、イノベーションには、ディスラプティブ(破壊的)イノベーションとサステナブル(持続的)イノベーションという2種類があると定義しました。

 実はネスレでは、自社が実践している施策などを「イノベーション」と「リノベーション」の言葉を使い分けて、検討したり評価したりしています。

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