この連載の第1回でも言いましたが、マーケティングとは、「新しい現実」から生じる「新しい問題」に対応することです。
家の外でコーヒーが飲まれる場所
ネスカフェは家庭向けに一生懸命売ってきた商品ですが、食品の家庭内消費金額はここ30年ほど右肩下がり。家庭向けコーヒー市場も小さくなっているという、新しい現実に直面していました。ネスカフェはコーヒー店などには卸していなかったので、家の外で、ネスカフェが飲める場所もなかった。
では、家の外でコーヒーが一番飲まれる、飲みたくなる場所はどこかといえば、代表的なのはオフィスです。昔は大抵のオフィスで、コーヒーが無料で提供されていましたね。
オフィスで働く人たちに、まるで家にいるかのように、おいしいコーヒーを安いコストで飲んでもらえないかと考え、形にしたのが、ネスカフェ アンバサダーです。
こうした企業の施策を学者が外から観察し、新たな理論としてまとめる。これがアカデミックな世界の動きです。
一方、僕のようなプロ経営者は、アカデミックなことを勉強しながらも、学者が打ち出した理論を自らの事業にどう生かしていくのか。経営者が考えている新事業のアイデアなどを社員と共有するために、どうしたら分かりやすく説明できるかを考えるのです。
その手段の1つとして僕は、「New Reality(ニュー・リアリティー)」(新しい現実、NR)から「Problem(プロブレム)」(問題、P)を認知し、新しい「Solution(ソリューション)」(解決策、S)をつくる方法論「NRPS Method」を提唱しています。これはネスレの社長、会長を歴任したピーター・ブラベック・レッツマット(ネスレ名誉会長)から学んだものがベースになっています。
ブラベックは今から16年ほど前にダボス会議で、「CSV(クリエーティング・シェアード・バリュー、共通価値の創造)」や「SDGs(持続可能な開発目標)」につながる独自の概念を発表していることをご存じでしょうか。

ネスレはコーヒーの原料であるコーヒー豆を世界で一番多く購入している企業です。しかし、世界の人口増加や地球温暖化などで、将来的に十分な量のコーヒー豆が手に入らなくなる可能性が懸念されていました。そこで彼は取引があるコーヒー農家に、1平方メートル当たりの収穫量を拡大してもらおうと、年間数100億円ほどの資金を支援する新しい制度をつくったのです。
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