チョコレート菓子キットカットの受験応援キャンペーンや、サブスクリプション型サービスをいち早く取り入れた「ネスカフェ アンバサダー」施策などで知られる元ネスレ日本代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)の高岡浩三氏。この連載では、話題の企業やトレンドなどを、高岡氏ならではのマーケティング視点で読み解きます。

日本人は、ビジネス書を読むのが好きですね。フィリップ・コトラー(米ノースウェスタン大学経営大学院名誉教授)の『Marketing Management』(邦題:コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント)などを読んでマーケティング理論を一生懸命、理解しようとする。
本を読めば、分かったつもりでいるビジネス知識を整理したり、最新理論に触れて新たな気づきを得たりすることもできます。
ただ、たくさん本を読めば会社の経営ができるかといえば、もちろんそうではない。本に書いてあることは、本を読んだ人は皆知っているわけです。それでは競争優位はつくれません。だから僕たちプロの経営者は、学者が構築した理論の一歩先を行く戦略を描き、実践する必要がある。
自己実現の欲求を満たす
実際に僕がつくった施策の1つに、「ネスカフェ アンバサダー」があります。ネスレのコーヒーマシンを職場用に導入し、周囲の同僚にネスカフェのおいしさを広めて、新たなファンを増やしてくれる方(=アンバサダー)を募集。ネスレから“給与”を支払うわけでもないのに、まるで代理店のように動いていただく施策です。
ある時、友人でもあるフィリップ(・コトラー)にこのネスカフェ アンバサダーについて話をしたら、驚いた顔をして、「これは(米国の心理学者であるアブラハム・)マズローの欲求5段階説における『自己実現の欲求』という、一番高いレベルの問題解決になる施策だね」と、評価してくれました。
「自己実現の欲求」とは、人に褒められたいとか、人にありがたがられたいといった欲求のことです。フィリップは「自己実現の欲求を満たす、初のマーケティングモデルだ」とも言って、感心していました。これがきっかけの1つになって、彼は(自己実現のマーケティングといわれる)「マーケティング4.0」について考え始めたのです。
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