チョコレート菓子キットカットの受験生応援キャンペーンやサブスクリプション型サービスをいち早く取り入れた「ネスカフェ アンバサダー」施策などで知られる元ネスレ日本代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)の高岡浩三氏。この連載では、話題の企業やトレンドなどを、高岡氏ならではのマーケティング視点で読み解きます(構成:安倍俊廣)。

ケイアンドカンパニー代表取締役社長 高岡浩三氏(写真:古立康三)
ケイアンドカンパニー代表取締役社長 高岡浩三氏(写真:古立康三)

 先日、日経ビジネスの「勝ち組企業のCMOが選ぶ 最強のマーケター」という記事の中で「マーケティングを見習いたい企業」としてキリンホールディングスが国内3位に入っていましたね。キリンさんはもちろん、日本のビール各社はマーケティングに熱心で、いかに商品を消費者に訴求するかを競い合っています。

 その姿勢は素晴らしいのですが、残念ながら、国内のビール需要は減り続け、20年前と比べると市場規模がほぼ半減してしまったという現実があります。

スキマ時間を埋める役割を奪われた

 僕はかつて、あるビール会社で講演したときに、「あなたの会社は消費者に対して、どんな問題解決策を提供してきたのですか。お客様がなぜビールを購入しているのかを、考えたことはありますか」と問いかけたことがあります。

 同じお酒でも、例えば焼酎は、昔は匂いがきついものが多く、東京などではあまり飲まれませんでした。僕はお酒が一滴も飲めないので、詳細は分からないのですが、最近は商品改良が進んで、匂いがしなくなり、味も飲みやすくなっているようです。その結果、全国的にかなりポピュラーな飲み物になりました。ウイスキーもハイボールという飲み方が出てきて、昔に比べればかなり広く飲まれています。

 しかし、この20年でアルコール飲料の総消費量はあまり変わっていないのに、ビールは半分になり、日本酒も減っています。なぜでしょうか。

 これは前回の連載でお伝えした「新しい現実」が関係しています。つまり、この20年の間に女性のアルコール消費量が増えるなどして、もっとおしゃれにアルコールを飲みたいという人が多くなった。そうした変化の結果として、相対的にビールが飲まれなくなるという「新しい現実」が生じたわけです。

 これはお酒の市場が変わったということです。ビール会社がいくらビールの広告宣伝にお金をかけても、元には戻らないでしょう。

 食品分野で言えば、チューインガムも同じような状況です。この10年でカテゴリー全体の売り上げが、最盛期の45%くらいまで減ってしまいました。

 ある時、僕は菓子メーカーのトップに「消費者がチューインガムをなぜ食べているか、どんなときに食べるのか、考えたことがありますか」と聞いたことがあります。するとそのトップは「暇潰しじゃないの」と答えたのです。

 今の消費者が暇潰しのために何をしているのかと言えば、チューインガムをかむのではなく、スマートフォンです。だからチューインガムが果たしていた「暇潰しをする、スキマ時間を埋める」という問題の解決を、今はスマホが担っている。そのため、この10年でチューインガムはスマホに取って代わられてしまったのです。

続きを読む 2/3 周回遅れのマーケティング

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り951文字 / 全文3612文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「高岡浩三のマーケティング経営論」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。