僕は仕事でいろいろな国に行きますが、海外の先進国の主要都市だと、ちょっとしたレストランでランチをすると最低3000円はします。でも、日本だと1000~1500円でおいしいものがたべられてしまう。素晴らしいことではありますが、これでは誰ももうからない。これでよいのかということです。

 ホテル業界も同じです。日本のGDP(国内総生産)は世界3位なのに、東京の一流ホテルですら、世界的に見たら客室の宿泊料金が非常に安い。だから宴会利用で予約を満杯にしないと利益が出ない仕組みになっています。

高齢者らしい生き方と死に方

 しかし失われた30年の間に、その宴会すら価格競争に陥って、客室を埋めて宴会場をいっぱいにしてももうからないというおかしな構造になってしまいました。

 こうした状況になっている理由は、マーケティング発想がないからです。

 日本では高齢化が急速に進行していますが、海外のホテルでは、「ホテルを終の棲家(ついのすみか)にしてもらう」ことによって、高齢の富裕層を取り込んでいます。

 欧米の高級ホテルに行くと、おじいちゃん、おばあちゃんが1人で朝食を食べている光景をよく見かけます。僕が新入社員時代にスイス本社に出張した際にもそういう光景を見て、驚いた覚えがあります。

 彼らは、どう見ても旅行客ではない。不思議に思ってホテルのスタッフに聞いたら、「彼らは大金持ちで、だんだん体が動かなくなるし、自分で食事の用意もできなくなるので、ホテルを終の棲家として使ってもらっている」と教えてくれたのです。

(写真:Shutterstock)
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 日本でも富裕層向けの老人ホームが出てきました。建物自体は豪華に見えますが、食事は食堂みたいなところに集まって食べる例が多いようです。この国では富裕層自身も、どういう生き方、死に方をしたいのかを考えてこなかった。サービスを提供する側も富裕層のライフスタイルを理解できていなかったのではないでしょうか。

 富裕層向けに富裕層らしい生き方、死に方を教えてあげる。僕はそれもビジネスの役割だと思うのです。

 でも日本人はせっかく海外視察などに行っても、欧米のサービスを咀嚼(そしゃく)して自らのビジネスに取り入れることができない。マーケティング的な発想ができないからです。だから物見遊山になってしまう。

 これからも高齢化は進み、人口は減っていきます。政府も企業も「高齢化は日本最大の問題だ」と言いますが、移民の受け入れを拒否しているのだから、高齢化が進むことは何十年も前から分かっていた話です。

 これほど大きな問題が生じるのが分かっているのに、どう備えるべきかという具体的な施策を考えてこなかった。

 こうした課題の解決を目指すのがマーケティングであり、イノベーションだと僕は思います。それができないのは、日本の企業や政府にマーケティングの発想がないからです。

 日本は様々な課題を抱えていますが、その解決にはマーケティング発想が必要です。この連載では日本の社会と企業が抱える課題を通して、解決の方向性をマーケティング発想で考えていきます。

この記事はシリーズ「高岡浩三のマーケティング経営論」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。