ホワイトカラー社員の残業代がなくなるわけですから、その分の給与をどうしようかという議論もしました。会社の業績が良かったので、労働組合からは「残業代がなくなる分をベースアップでカバーしてもらえないか」と申し出があり、それを前提に賛否を問うた。すると99%くらいの人がホワイトカラー・エグゼンプション導入に賛成したのです。
また僕は、ホワイトカラー・エグゼンプションが導入されたら、「リモートワークを権利として与える」とも言いました。
新しい現実と新しい問題
ホワイトカラーは本来、「これだけのアウトプット(成果)を出すのがあなたの仕事です」と決まっている人たち。だから成果さえ出せるのなら「いつ仕事をしてもいい」し、「いつ仕事をしなくてもいい」わけです。
それなのにコロナ禍になって、慌ててリモートワークを導入したために、「勤務実態の把握が難しくなった」とか、「自宅で仕事をしている社員を、上司がどうやって指導したらよいのか」といった議論が出てくる始末。全くおかしな話ですよ。
もともと管理職というのは、自分やスタッフが自宅に居ても、その仕事ぶりを管理監督できるノウハウを持っておくべき存在です。
ですからネスレ日本では、リモートワークに対応した管理職教育をしていました。それでも、リモートワークの導入に難色を示すような管理職には「辞めてくれ」とはっきり言いました。日本では社員をクビにできませんが、管理職なら役職を外すことができますから。
こうした必然的な変化のことを僕は「新しい現実」と表現しています。新しい現実がやって来ると必ず、「新しい問題」も発生します。
例えば高齢化社会という新しい現実が生じると、老老介護などの新しい問題が発生します。老老介護なんて、僕が若い頃にはなかった言葉です。しかし定年が60~65歳なのに平均寿命が80歳、90歳と延びていけば、当然いろいろな新しい問題が生じます。

1983年神戸大学経営学部卒。同年ネスレ日本入社、各種ブランドマネジャーなどを経て、ネスレコンフェクショナリーのマーケティング本部長として「キットカット」受験応援キャンペーンを手がける。2010年ネスレ日本代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)に就任。「ネスカフェ アンバサダー」で日本マーケティング大賞受賞。20年3月ネスレ日本を退社し現職。
日本では、こうした新しい問題に対応できる企業の数があまりにも少ない。これは経営者に問題があると思います。プロの経営者を育ててこなかったために、新たな事象や言葉が出てきても、その意味をきちんと考える習慣が身に付いていない。だから対応が後手に回り、「失われた30年」が生じてしまったのです。
新しい問題に対応できていない業界の例を挙げるなら、1つは飲食業界です。和食は2013年にユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の「無形文化遺産」に登録されました。しかし、これほど素晴らしい食の文化があるのに、日本の飲食業の利益率は低い。誰も彼もが安売り競争に走っているような状態です。
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