チョコレート菓子キットカットの受験応援キャンペーンやサブスクリプション型サービスをいち早く取り入れた「ネスカフェ アンバサダー」施策などで知られる元ネスレ日本代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)の高岡浩三氏。この連載では、話題の企業やトレンドなどを、高岡氏ならではのマーケティング視点で読み解きます(構成:安倍俊廣)。

ケイアンドカンパニー代表取締役社長 高岡浩三氏(写真:古立康三)
ケイアンドカンパニー代表取締役社長 高岡浩三氏(写真:古立康三)

 新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は、まさに100年に1回あるかないかの非常事態でした。不幸な出来事が多くあり、世界経済にとって深刻な打撃となりましたが、一方で、コロナ前から日本や世界が抱えていた課題の存在が、誰の目にも明らかになる機会にもなりました。

 20世紀型の古いビジネスモデルはもう通用しない、賞味期限切れだと、皆が理解できたと思います。そういう意味では、失うばかりではない2年だったのではないでしょうか。実際、コロナ禍をきっかけに、曲がりなりにもデジタル活用が加速しました。

ネスレ日本は“日本的”な企業

 しかし今後、コロナの状況が落ち着いてくると、日本はまたコロナ前の状態へ戻ってしまうかもしれません。日本は“外からの圧力”によって改革機運が盛り上がっても、しばらくすると元通りという前歴がたくさんあるからです。

 例えば今から10数年前に経済3団体(日本経済団体連合会、経済同友会、日本商工会議所)が提案したホワイトカラー・エグゼンプション制度がそうです。一定の基準を満たしたホワイトカラーに対しては労働時間、休憩、休日、深夜業務の規制を除外できるという制度でしたが、今は見る影もありません。

 もともと、ホワイトカラーが時間給で仕事をしている国なんて、先進国では日本だけです。だから、この提言はもっともだと思ったのですが、経済3団体も途中で「労働法を変えてもらわないと実現できない」などと言い出し、腰砕けになり、結局何も変わりませんでした。こうした事例をいくつも見てきたので、僕は日本の改革に半信半疑なのです。

 僕が社長をしていたネスレ日本は外資系ですが、経営スタイルはとても日本的。労働組合もあって、管理職以外は全員組合員というかなり古いタイプの組織です。離職率は1%台で、一般的には良い数字ですが、誰も辞めてくれないので、経営者としては頭が痛いこともありました。

 こういうネスレ日本で、実はホワイトカラー・エグゼンプションを独自に導入しようとしていたのです。

 僕が社長になったのは2010年。団塊の世代(1947~49年の第1次ベビーブーム期に生まれた世代)が退職する時期でした。そこで新卒の採用を思い切って抑え、4月の定期採用はやめました。

 こうして古いやり方を見直して、その上でホワイトカラー・エグゼンプションを導入すると決めたのです。労働組合にはその賛否について投票してもらいました。

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