個人より社会のメリットを重視

 「個人情報の保護」と「生活のメリット」のバランスに正解はない。新型コロナ対策では、マスクの着用やワクチン接種に対する「個人の自由」の解釈で、欧米とアジア諸国に差が感じられた。マスク拒否を断固として訴える欧米の人々の姿を見て、「なぜあそこまで反発するのか」と感じた人もいるだろう。

 中国はアジアの中でも「個人より社会のメリットを重視する」国だ。その是非はともかく、中国の人々がスマートシティを受け入れ、中国のIT大手がスマートシティのシステムの委託を受ければ、中国ではスマートシティのための技術やシステムが着実に開発される。民間企業は技術やシステムを提供するノウハウを獲得し、都市運営のための膨大なデータと経験が蓄積されることになる。

 日本や欧米が「個人情報の保護」と「生活のメリット」のバランス点について延々と議論をしている間に、中国は遠い先へと進んでしまうのだ。

「パッケージで解決」の甘い誘惑

 スマートシティの輸出先になりうる新興国、途上国は、都市人口の増大に伴う環境問題、交通渋滞、治安の悪化、エネルギー需要や行政サービスの負担の増大などに頭を悩ませている。それにゼロカーボンの高いハードルが追加されるようになれば、悩みは一層深刻になる。

 これらの問題を解決するための、先進技術・デジタル技術の導入と習得、予算の確保、作成しなくてはならない膨大な計画や政策の処理は、極めて困難な仕事だ。自らの力でこれを成し遂げられる新興国、途上国はわずかだろう。

 その時、すべての問題の解決をセットにした都市のシステムが、「技術」と「経済支援」つきで、中国から提示されたらどうだろう。個人情報を吸い上げるシステムはついているが、それをどう使うかを強制される訳ではない。提供されるのはあくまで技術とシステムだけという条件だ。あまりに巨大な課題を前に、すべてがパッケージ化された中国の支援を受け入れる新興国、途上国は少なくないのではないか。

すべてが中国化へ

 中国がその気になれば、中国版スマートシティが新興国、途上国に普及する可能性は十分にある。

 スマートシティが吸い上げる情報をどのように取り扱うかは「当該国の判断」といっても、中国版スマートシティを受け入れれば、中国の都市運営のために作られた行政サービス、インフラ運営のためのテンプレートを使うことになる。

 インフラそのものの選択や、システムの保守管理や更新でも中国に依存せざるを得ない。それはゼロカーボン政策やスマートシティ建設を通じて、新興国、途上国の都市運営の「中国化」が進むことに他ならない。

 スマートシティ開発が成功して多くの人や企業が集まるようになれば、政策や文化面でも中国の影響が拡大することになるだろう。こうした流れに抗おうとしても、欧米には個人情報の問題でスマートシティの運用実績を蓄積する術がない。

 中国にとってのスマートシティは、国際的な影響力を強固にする可能性を秘めた戦略パッケージなのである。

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「日経ビジネスLIVE」とは:「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト

■開催概要
日経ビジネスLIVE
ゼロカーボノミクスを勝ち抜く経営ビジョン
~日本企業はどう取り組むべきか~

日時:2021年11月25日(木)~、全4回開催(予定)
会場:Zoomを使ったオンラインセミナー
主催:日経ビジネス、日経クロステック、日経BP総合研究所
Partner:アーサー・ディ・リトル・ジャパン、GE、シーメンス・エナジー、
住友林業、ダイヘン、J-POWER、
東芝三菱電機産業システム、東京ガスグループ
受講料:無料 ※事前登録制(先着順、開催日ごとの登録が必要)

12月2日開催分の視聴申し込みはこちら

■12月2日のプログラム

14:00~14:50
ゼロカーボン時代、資金調達はどう変わるか
~市場で評価される企業の条件~
ブラックロック・ジャパン 社長CEO 有田 浩之 氏
野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト 木内 登英 氏

15:00~15:50
脱炭素スタートアップの実像
~日米最新動向と協業への道~
スクラムベンチャーズ 創業者兼ジェネラルパートナー 宮田 拓弥 氏
エネチェンジ CEO/共同創業者 城口 洋平 氏

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