欧米ほどこだわりがない個人情報に対する意識

 スマートシティ以前の問題として、日米欧に比べると、中国政府は個人の動きに関する情報をはるかに多く持っている。良い悪いは別にして、中国の人たちはそれを所与として生活を送っている。

 ここで重要なのは、政府が情報を握るのは「悪いことばかりではない」という点だ。

 スマートシティで得られる情報を駆使すれば、交通渋滞や交通事故が減るだろうし、行政サービスも行き届くようになるし、治安も良くなるだろう。実際、米国の大都市では治安が悪くて夜1人で出歩くことができないのに対して、北京や上海では誰でも安心して出歩くことができる。政府の監視が強いことのメリットを甘受している人がいても不思議はない。

グーグルの失敗

 このようにスマートシティから得られるデータをどこまで使うかの線引きは、個人情報と生活のメリットのバランスをどう取るかで変わってくる。そして北米では、そのバランスが「個人情報保護の側に寄っている」ことを示す事態が起きたのだ。

 カナダ政府、オンタリオ州、トロント市は、トロント市内の300haに及ぶ広大なウオーターフロントに公園、公共、文化、商業、居住施設などからなる次世代の複合都市を建設するために、トロントウオーターフロント再開発会社を設立した。その中核地域4.9haの開発を担う事業者の権利をグーグルの親会社アルファベット傘下のサイドウォークラボが落札した。

 同社は自動運転、物流、エネルギーなどの先進技術と都市管理技術を導入し、快適・安全・効率的な都市を創るとしていた。世界最先端のデジタル技術と資本力を持つアルファベット傘下の企業が、次世代都市開発に取り組むということで世界的にも注目されていた。しかし、最終的には、個人情報の扱いに関する市民団体などの反対により、サイドウォークラボはこの開発から撤退することになったのだ。

 サイドウォークラボ側にビジネス的な意図があったことは間違いないが、公共団体や市民を無視していた訳ではない。規制機関と連携して開発に制限を加え、市民に配慮した開発計画を作ることにも同意し、市民との意見交換も行ってきた。

 同社が掲げた開発理念には、住民・労働者・観光客の生活の質を向上、市民・スタートアップなどの参加、都市問題の解決、都市改革やサスティナブルな都市づくりを進める、など、地域への配慮や理想的な都市開発への意気込みが示されている。そうした開発像を示しながらも、都市内で得られる個人情報を含むデータの取り扱いについて、市民側の懸念を払しょくすることができなかったのである。

 トロントの事例は、欧米で民間企業がスマートシティに関わることの難しさを示している。「GAFAがデータを独占している」といった反発が、世界中で強くなっていることを考えると、欧米での巨大IT企業のスマートシティへの参加は難しくなるだろう。

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