日本でもあらゆる産業でカーボンニュートラル(脱炭素)を強く意識した動きが加速しています。日経BPではこうした新しい経済潮流をテーマに、日経ビジネス、日経クロステック、日経BP総合研究所の共催で、11月25日(木)から4週にわたってオンラインセミナー「ゼロカーボノミクスを勝ち抜く経営ビジョン ~日本企業はどう取り組むべきか~」を開催いたします(視聴無料、事前登録制・先着順、記事末尾に詳細)。
世界で主導権争いが加速するカーボンニュートラルはこれまでのビジネスルールを一変させ、既存産業を崩壊させる。事業環境を壊す気候変動、企業を追い込むESG(環境・社会・企業統治)の潮流、脱炭素市場での中国の独走……。こうした動きを背景に勃興する新たな経済競争について、日本総合研究所の井熊均フェローら4人は「ゼロカーボノミクス」と名付け、21世紀の企業の盛衰を左右すると主張する。その詳細をまとめた新著『脱炭素で変わる世界経済 ゼロカーボノミクス』(11月3日発売)から、一部を抜粋して紹介する。

中国のカーボンニュートラル宣言への世界の反応を要約すると「世界最大のCO2排出国である中国が、ゼロカーボン宣言をしたことは歓迎する」というものだろう。
しかし欧米諸国からは、宣言の裏に垣間見える「中国の思惑」に対する警戒心がにじみ出ている。後段で述べる欧米の反応を見れば「中国の勢いに戦々恐々」というのが本音なのだ。
民主国家とは重みが違う 独裁国家の約束
なぜ欧米諸国は、中国のゼロカーボン宣言をそこまで警戒するのだろうか。その理由を一言で表すと「中国はゼロカーボンを宣言できる国になったのか」という驚きである。
実は、欧米のように選挙で政権が代わる民主国家では、ゼロカーボンのような長期的宣言がいつまで守られるのか、極めて疑わしいところがある。
実際、米国ではオバマ大統領が脱炭素に大きく舵を切ったが、トランプ政権が誕生すると180度方針転換し、CO22を大量に排出する石炭産業に追い風が吹いた。民主国家では、掲げた政策が実現しなくても「政権交代したから」「野党が邪魔したから」など、いくらでも言い訳ができる。日本や欧米などの民主国家の宣言の重みというはその程度のものであり、ゼロカーボン宣言が軽々しくなされていると言われても、否定しにくい。
それに対して、独裁政権である中国では政権が代わることがないから、宣言の重みがまったく違う。一党独裁の下で示された方針は国家全体で着実に遂行されるから、指導者は言い訳も責任転嫁もできない。政府や指導者は自らの無謬(むびゅう)性を重視するため、方針転換を極端に嫌う。ひとたび宣言すれば、その方針から逃げることができないのが中国なのだ。
また独裁政権は、欧米のような民主国家よりも政権を失うことをはるかに恐れている。独裁政権の失権とは、体制崩壊や政治的な死を意味するから当然だ。
だからこそ、独裁でありながら国民の声には敏感になる。特に気候変動対策などの環境政策は、大気汚染などに悩まされ続けている中国では極めて重要な位置づけにあり、おざなりにすると国民の信頼を失う。宣言した限りは、意地でも約束を実現しなければならないのだ。
海外に目を向けても、国際的に宣言したことを反故にすれば、待ってましたとばかりに欧米から批判されることは目に見えている。世界からリスペクトされることを強く好む中国政府や中国の国民にとって、その事態は避けなければならない。この意味でも宣言の履行は必達なのである。
このように、欧米と独裁国家・中国とではゼロカーボン宣言の持つ重みがまったく違うのだ。欧米はその違いをよく分かっているからこそ、中国の宣言の本気度を理解し、驚くとともに強く警戒しているのである。
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