日本でもあらゆる産業でカーボンニュートラル(脱炭素)を強く意識した動きが加速しています。日経BPではこうした新しい経済潮流をテーマに、日経ビジネス、日経クロステック、日経BP総合研究所の共催で、11月25日(木)から4週にわたってオンラインセミナー「ゼロカーボノミクスを勝ち抜く経営ビジョン ~日本企業はどう取り組むべきか~」を開催いたします(視聴無料、事前登録制・先着順、記事末尾に詳細)。

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世界で主導権争いが加速するカーボンニュートラルはこれまでのビジネスルールを一変させ、既存産業を崩壊させる。事業環境を壊す気候変動、企業を追い込むESG(環境・社会・企業統治)の潮流、脱炭素市場での中国の独走……。こうした動きを背景に勃興する新たな経済競争について、日本総合研究所の井熊均フェローら4人は「ゼロカーボノミクス」と名付け、21世紀の企業の盛衰を左右すると主張する。その詳細をまとめた新刊『脱炭素で変わる世界経済 ゼロカーボノミクス』(11月3日発売)から、一部を抜粋して紹介する。

脱炭素への対応に危機感を抱くトヨタ自動車の豊田章男社長(写真=共同通信)
脱炭素への対応に危機感を抱くトヨタ自動車の豊田章男社長(写真=共同通信)

 100万人の雇用と、15兆円もの貿易黒字が失われかねない――。

 脱炭素の遅れで自動車は輸出できなくなり、最大の輸出産業で雇用が失われる。トヨタ自動車の豊田章男社長が“必死の警告”を続けている。

 菅義偉首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」の後、日本自動車工業会(自工会)の会長として宣言に賛成した上で、このままでは「産業が崩壊する」と叫び続けているのだ。

 「カーボンニュートラル2050、これは国家のエネルギー政策の大変化なしに達成は難しい」「ここで手を打たないと、モノ作りを残して、雇用を増やし、税金を納めるという、自動車業界がやっているビジネスモデルが崩壊する」(2020年12月17日)

 「車の競争力をどれだけ上げたとしても、このままでは日本で車を作れなくなる」(2021年3月11日)

 「クリーンエネルギーを調達できる国や地域への生産シフトが進み、日本の輸出や雇用が失われる可能性がある」(2021年4月22日)

 豊田会長の苦言、いや、危機感の吐露は、自工会の会見のたびに繰り返された。そして、必死の訴えは「自工会会長」という立場だけにとどまらなかった。

 「今回のトヨタイムズは水素エンジン!」「カーボンニュートラルは共感が大事」。俳優・香川照之氏の力のこもったナレーションと、豊田社長のレーシングスーツ姿が印象的なテレビCMを、何度も目にした方も多いだろう。トヨタ社長という立場でも、豊田氏は自らが先頭に立ってアピールを続けたのである。

 日本の業界団体・大企業のトップが、テレビCMまでを動員し、ここまでに、頻繁に、政治的な発言を繰り返すのは前代未聞だ。しかもトヨタは「たくさんある会社の1つ」というような存在ではない。日本企業で断トツ1位の株式時価総額、約30兆円の営業収益、2兆円を超える営業利益を誇る、日本一の企業である。

 そのトヨタのトップが、政治に煙たがられるのをいとわず、なりふり構わぬ姿で、何度も何度もアピールせざるを得ない危機感を持っているのだ。

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