(写真=的野弘路)
(写真=的野弘路)

 自分の方が相手より優位であることを言動で示す「マウンティング」。SNSではよく話題に上るテーマです。新型コロナウイルスの影響か、マウントの種類も多様化してきました。リモートワークが広がった現在、難しい本がずらりと並んだ本棚を背景に設定する「Zoomマウント」などが一時期話題になったこともありました。

 最近、Z世代のマウンティングで面白い話を耳にしました。どうやら最近のZ世代の間では、SNSネーティブならではの新しい「マウントいいね」なるものが発生しているようです。「マウントいいね」とは、まだあまり注目されていないモノや人をいち早く発見し、「いいね」をすること。「自分はこんなに情報の感度がいいんですよ」とアピールをする、SNSにおける新しいマウンティングを指します。

 実際、社内にいる私より年下のZ世代メンバーの中には、K-POPアーティストのBTS(防弾少年団)のメンバーが個人Instagramを開設した際にもこの「マウントいいね」を感じた人がいたようです。何の予告もなしに突然SNSアカウントがつくられたにもかかわらず、瞬く間にフォロワー数がギネスブックに登録されたBTS。Z世代のBTSファンとしては、開設直後のアカウントをいかに早くフォローして、投稿に「いいね」できたかが重要。自らがBTSのファンであることのプライドを感じたといいます。

 今のZ世代にとって、SNSにおける「いいね」やアカウントのフォローは、単に「いつでも情報を得るため」という利便性を目的としたアクションにとどまりません。SNS上で「この情報にアクションをしている自分」をアピールする手段の一つになっているのです。

 彼ら彼女らにとって、「いいね」の数そのものはあまり意味を持ちません。SNSの「いいね」が持つ意味は、投稿そのものに対する評価を示すものとしてではなく、自身の情報に対する感度をアピールする、自分の足跡をつけるようなものとして機能しているのです。

 それに加えて、SNSにマウントしやすい機能が整っていることも上げられます。アーカイブに残らないライブ配信、24時間で消えるストーリーズ投稿、一部のユーザーに閲覧制限をかけられる「親しい友達」設定など、一定時間内に一定のユーザーにだけ発信することができる機能が数多く出ています。日常的にマウントが起きやすい環境がつくられているのです。

 「マウントいいね」には、Z世代の流行への敏感さが表れているともいえるでしょう。かつてないほどのスピードで移り変わるトレンドについていくZ世代は、はやり廃りのスピードが速いこともよく知っています。Twitterでも、アイドルなどのエンタメのファンはいかに速く特大ニュースをいいね・リツイートできるかがマウントになるといいます。

 流行する前、もしくは流行直後に既に把握しているということが情報感度のアピールにつながるのです。

 後ほど詳しく説明しますが、こうした「いいね」に見られるZ世代の脱・数字至上主義の考え方から見えてくるのは、Z世代にとって友人に囲まれた何気ない日常生活の満足感こそがいちばん自慢できる要素になりうるということです。お金のかかる高級品の所持や広い家など、物質的なマウンティングはもはや彼らにとって身の丈に合わないものになっている。

 それよりはむしろ、仲の良いたくさんの友人に恵まれたプライベートの交友関係の濃さをアピールすることがZ世代にとってはなによりのマウンティングになるのです。

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