ブラックフライデーセールを実施していた米ウォルマートの店舗では、画面サイズが70インチ(約177センチメートル)もある巨大テレビを、ショッピングカートに載せて購入していたお客が何人もいた。なぜこんなことが起きたのか? そこにはウォルマートの巧みなDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略が関係していた…(写真:後藤文俊)
ブラックフライデーセールを実施していた米ウォルマートの店舗では、画面サイズが70インチ(約177センチメートル)もある巨大テレビを、ショッピングカートに載せて購入していたお客が何人もいた。なぜこんなことが起きたのか? そこにはウォルマートの巧みなDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略が関係していた…(写真:後藤文俊)

 米国在住である筆者は、日本企業からの米国視察や社員研修を請け負う際に、米流通大手が開発したスマートフォンアプリ(ストアアプリ)を題材として使うことが少なくありません。そうした際に参加者からよく聞かれる質問の1つに、「なぜ日本では、米国のように、流通企業が開発したストアアプリの利用が広がらないのか」というものがあります。

増やしているのは「ネット通販向けピックアップ拠点」

 日本と米国とでは、スマートフォンの普及率や業界構造が違いますが、もう1つ、見過ごされがちな理由があります。流通業界の内部に、ストアアプリのような「デジタル変革」に抵抗する勢力がいることです。それの“正体”を明かす前に、まず米国流通の現状について説明をします。

 日本でも隆盛を誇った「チェーンストア理論」は今、ある「不都合な真実」に直面しています。若い頃に、米国の流通業の視察などを通じてチェーンストア理論をたたき込まれた年配の方にとっては、頭を抱えてしまうような事実です。

 チェーンストア理論の原理原則と言える「店舗数を増やすことで、企業は成長する」という考え方が、米国では通用しなくなっています。「店舗を100店、200店、1000店と増やしていかなければ、お客が求めている商品の品質や店舗の機能、価格の安さを実現できず、チェーンストアの成長はない」という考え方は完全に時代遅れです。

 実際、チェーンストア最大手である米ウォルマートの国内事業部門ウォルマートUSの店舗数は、3年連続で減少。60年に及ぶ同社の歴史の中で、3年前まで、店舗数が減少したことは一度もありませんでした。こうしてウォルマートUSの店舗数が減る一方、傘下のスーパーセンターやディスカウントストア、ネイバーフッドマーケットの既存店売上高前年比は毎年伸びているという事実があります。

 では、ウォルマートと競合するディスカウンターである米ターゲットはどうでしょう。店舗数だけ見れば、同社は今も増やし続けています。

 ターゲットには3つの店舗フォーマットがありますが、顕著に増えているのは小型フォーマットであり、店数が増えても売り場面積(の合計)は、さほど増えていません。売り場を拡大しているというより、「ネット通販向けの(小型)ピックアップ拠点を増やしている」のが実態なのです。そんなターゲットにも、チェーンストア理論を信奉した店舗展開による“黒歴史”があります。同社は2013年にカナダへ進出しましたが、2年で撤退してしまいました。カナダ進出は、チェーンストア理論を信奉していた前の最高経営責任者(CEO)の肝煎りでしたが、店舗を133店まで拡大しても赤字が続き、現CEOの判断で撤退が決まったのです。