米ウォルマートは2021年6月、国内従業員の約半数に当たる74万人に韓国サムスン製スマートフォンを無償支給した。スケジュール管理やPOSシステム機能などを備えたスタッフ用アプリを搭載した専用スマートフォンで、機種は企業向けの「ギャラクシー・Xカバー・プロ」。専用ケースとスマホが破損したときの修理代を補償する保険まで付けている(写真:ウォルマート)
米ウォルマートは2021年6月、国内従業員の約半数に当たる74万人に韓国サムスン製スマートフォンを無償支給した。スケジュール管理やPOSシステム機能などを備えたスタッフ用アプリを搭載した専用スマートフォンで、機種は企業向けの「ギャラクシー・Xカバー・プロ」。専用ケースとスマホが破損したときの修理代を補償する保険まで付けている(写真:ウォルマート)

 4月22日、米ウォルマートは6月1日に開催する株主総会向けのインタラクティブな「2022年アニュアルリポート(2022 Annual Report)」を自社サイトにアップしました。早速目を通しましたが、同社60年の歴史の中でも特筆すべきポイントが3つあることに気がつきました。いずれも「アマゾン・エフェクト(効果)」を強烈に感じさせる内容です。

 1つ目は、ウォルマートの設備投資の総額が前年比で3割(27.7%)も増加したことです。28億ドル増えて131億ドルになりました。大半は国内(米国)向けで、国内設備投資は78.3億ドルから106.1億ドル(約1.3兆円)へと35.5%増加しました。

アレクサのような機能も

 投資対象は、(1)「Eコマースなど(eCommerce、Technology、Supply chain and other)」、(2)「リモデル(Remodels)」、そして、(3)「新規出店など(New stores and clubs, including expansions and relocations)」の3つ。

 このうち伸長率が最も高かったのはリモデルで、前年比62.8%増の32.8億ドル。店舗改装などに12.7億ドルを投じています。2番目に高かったのはEコマースで26.7%(15.2億ドル)増の72億ドルでした。こうした設備投資の動向を見るだけでも、ウォルマートがDX(デジタル・トランスフォーメーション)に遮二無二に取り組んでいることが分かります。同社の“振る舞い”は、もはやIT企業と言ってもよいほどです。

ウォルマート設備投資額推移
ウォルマート設備投資額推移
海外事業を含むウォルマートの設備投資の推移。2021年までと比べて2022年は大幅に増加。ネットスーパーの展開を急ぎ、店舗の改装やIT投資が増加している(ウォルマート「2022年アニュアルリポート」より作成)
[画像のクリックで拡大表示]
ウォルマート国内設備投資額の推移と内訳
ウォルマート国内設備投資額の推移と内訳
ウォルマートの国内設備投資額の推移と内訳。最も伸長率が高かったのはリモデル(改装)で前年比62.8%増の32.8億ドル(約4000億円)。次がEコマースで26.7%増加の72.0億ドル(約8800億円)だった(ウォルマート「2022年アニュアルリポート」より作成)

 例えばウォルマートは2021年6月、国内従業員の約半数に当たる74万人に、韓国サムスン製スマートフォンを無償支給しました。スケジュール管理(Scheduling)やPOS(販売時点情報管理)システム機能などを備えたスタッフ用アプリを搭載した専用スマートフォンで、従業員の生産性向上を狙っています。

 機種は企業向けの「ギャラクシー・Xカバー・プロ(Galaxy XCover Pro)」(実勢価格499ドル)。これに専用ケースとスマホが破損したときの修理代を補償する保険まで付けています。

 注目はビルトイン・アプリ「ミー・アット・ウォルマート(Me@Walmart)」です。最大2週間分の勤務予定を閲覧できるスケジュール管理機能や、ジオフェンシング技術を応用したタイムカード・アプリ「モバイル・クロック・イン(Mobile Clock In)」などを備えています。

 また、普通のギャラクシー・Xカバー・プロではオプションになっている「プッシュ・ツー・トーク(Push to Talk)」という、トランシーバーのようにチーム内で即時連絡ができる機能も付いています。さらに米アマゾン・ドット・コムの音声アシスタント「アレクサ(Alexa)」によく似た「アスク・サム(Ask Sam)」という機能もあり、商品の陳列場所などを音声で調べられます。AR(拡張現実)を利用して、バックヤードの在庫棚を撮影するだけで、どの商品を品出しすべきかが簡単に分かる機能も実装されています。

次ページ フライホイール効果とは