おしどり夫婦として知られている俳優ウィル・スミス氏と、妻のジェイダ・ピンケット・スミス氏(撮影日は2019年5月19日、写真:Shutterstock)
おしどり夫婦として知られている俳優ウィル・スミス氏と、妻のジェイダ・ピンケット・スミス氏(撮影日は2019年5月19日、写真:Shutterstock)

 米アカデミー賞の授賞式で起きた俳優ウィル・スミス氏による「ビンタ事件」は、今も米国で波紋を広げ続けています。

 ことの発端は、賞のプレゼンターとして登場したコメディアンのクリス・ロック氏が、脱毛症に苦しむスミス氏の妻ジェイダ・ピンケット・スミス氏を、映画『G.I.ジェーン』の主演女優が丸刈りだったことに引っ掛けて茶化したことです。これにスミス氏が激怒。ステージ上にいたロック氏に詰め寄りビンタしただけでなく、放送禁止用語を使って罵った……、という経緯は、日本でも報じられたようなので、ご存じでしょう。

米国人を戸惑わせる革新的なシステム

 米国では問題のシーンを収めた動画がすぐに「YouTube」などにアップされ、再生回数が9000万回を超えたものもあります。アカデミー賞という晴れの舞台で起こった前代未聞の騒動は、発生から2週間以上が経過した現在でも、米国では最もホットな話題の一つです。

 ただこの事件に関する日本人の受け取り方は、米国人のそれとはかなり違うようです。「笑い」に関するルールが日米で大きく異なっているからでしょう。

 これをよく表しているのが、ウィル・スミス氏の一件に負けないほど話題になっている「アマゾン・ゴー(Amazon Go)のパロディー動画」です。アマゾン・ゴーは、米アマゾン・ドット・コムが展開しているレジなしコンビニエンス・ストアのこと。今回は、この話題の動画を題材にして、日米の違いについて考察してみます。

 この動画は、米NBCテレビのコメディー番組「サタデー・ナイト・ライブ(Saturday Night Live:SNL)」が3月12日に、アマゾン・ゴーが導入している自動決済技術「ジャスト・ウオークアウト(Just Walk Out:JWO)」を使うと、まるで“万引き”のような形で買い物ができることをネタにして、“CM風動画”として流したものです。

 JWOについては、本コラムでも何度か取り上げていますが、おさらいしますと、人工知能(AI)やコンピューターヴィジョン(映像解析技術)を駆使することで、従来のようにレジで精算をしなくても商品を購入できる革新的なシステムのことです。JWOを導入しているアマゾン・ゴーでは商品を手に取って、そのまま店を出るだけで自動的に決済が完了します。コンタクトフリーで買い物ができるため、新型コロナウイルス禍で懸念される「他人との接触機会」を減らす対策としても注目されています。

 その“すごさ”は本コラムの記事(「アマゾンのレジなしAIスーパーで“万引き”は可能か?」)でも検証しましたが、米国ではアマゾン・ゴーが発表された当初、多くの消費者から「本当に商品を持って、そのまま店を出ていっても大丈夫なのか?」という声が上がりました。JWOが「破壊的イノベーション」だったために、その革新性を多くの人が理解できず、戸惑ったからです。

 ではSNLの件に戻って、話題のパロディー動画について解説していきます(なお、動画はSNLの公式YouTubeチャンネルにアップされ、米国では誰でも閲覧できるのですが、残念ながら日本からはアクセスできないようです)。

 動画は、アマゾン・ゴーの入り口にあるゲートにスマートフォンをかざして入店する買い物客を映しながら、「アマゾンは2018年から、お客様に全く新しい買い物体験を提供しています。(アマゾン・ゴーなら)お客様は商品を持ち去るだけです」という女性のナレーションで始まります。

アマゾン・ゴーの入り口にあるゲートにスマートフォンをかざして入店する買い物客(実際の店舗を撮影したもので、SNL動画のシーンではありません。写真:後藤文俊)
アマゾン・ゴーの入り口にあるゲートにスマートフォンをかざして入店する買い物客(実際の店舗を撮影したもので、SNL動画のシーンではありません。写真:後藤文俊)

 すると、白人の女性客が「商品を持って出るだけですか?」と尋ね、ナレーターが「その通りです」と返答。女性客は「ワォ! 簡単ですね」と言って、商品をかばんに入れて店を出ます。

 その後、「必要なものを手に取って、バッグに入れて、店を去るだけ!」というナレーションが入り、アマゾン・ゴーでは“万引き”さながらの形で買い物ができることを強調します。

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