
米国の国防費は、2021年度で7410億ドル。1ドル130円換算で約96兆円という巨額が注ぎ込まれています。しかし米国に特有の“ある商習慣”にまつわる金額は、その国防費をも超えています。それは、“返品”です。
全米小売業協会(NRF)の発表によると、21年に返品された商品の総額は7610億ドル(約99兆円、※21年当時の試算による)。しかも、米国では返品率が年々上昇しています。やはりNRFによると、オンラインで販売した商品の返品率は20年が18.1%で、21年は20.8%。また、21年の年末商戦(11~12月)は返品率が平均16.6%で、10.6%だった前年同期に比べて6ポイント(56%)も増加しました。
ストレスフリーな返品体験は顧客化につながる
オンライン販売は、様々な理由から返品が多くなりますが、それを支えているのが米小売業界特有の“寛大な返品システム”です。日本でも知られるようになってきましたが、米国ではチェーンストアやオンライン販売の多くで、「あらかじめ設定した期間内であれば、理由を問わず、使用済みでも消耗していても、返品・返金に応じる」仕組みがあります。
「無条件返品」や「100%満足度保証」と呼ばれるこの仕組みは、「商品に満足できない」という理由でも返品が可能であり、“お客が損をしない”仕組みでもあります。
無条件返品は、米国において100年以上の歴史があります。購入された商品が返品されるリスクは店が負いますが、実は返品に伴うコストは商品価格に“織り込み済み”。店側が損をしない仕組みになっています。
激安過ぎて「原価割れ覚悟」のイメージがある米ウォルマートでさえ、売上高総利益率は24%もあります。だからこそ無条件返品が可能なのです。粗利益率が20%を下回る日本の低価格訴求型チェーンでは到底無理な話でしょう。
すこし古いデータですが、18年に実施された「オンライン販売の返品に関する調査」(対象者約130人)では、楽に返品ができたり、返金にもすぐ対応してくれたりするなど「返品時の体験が良いECショップ」の購入者のうち96%が、「もう一度、同じECショップで購入する」と回答。ストレスフリーな返品体験は、購入者の顧客化につながるのです。逆に煩雑な手間が必要な「ストレスフルな返品体験」をすると、約7割(69%)の人が「同じお店での購入を控える」と回答しました。
さて、ウォルマートは22年から「カーブサイド・リターン」という取り組みを始めました。これは(ネットで注文した商品を店舗の専用駐車場で受け取れる)カーブサイド・ピックアップの対象を、返品にまで拡大したものです。
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