節水基準の解決にアクアエレクトロニクス導入

 話は少し遡って92年。米国で「エネルギー政策法」が制定され、法律成立から2年以内に「トイレの洗浄水量を1.6ガロン(約6リットル)以下に抑えなければならない」という厳しい節水基準が設けられた。

トイレは世界的に厳しい節水基準が求められている(北九州市のTOTOミュージアム)
トイレは世界的に厳しい節水基準が求められている(北九州市のTOTOミュージアム)

 水資源が豊かな日本と違って、米国や中国、そして欧州などでも水不足は慢性的に深刻な問題だ。80年代後半から移民等の人口増加で水資源の確保が追いつかなくなった米国では現在、カリフォルニア州やフロリダ州などで4.8リットル以下との基準になっている。TOTOでは最も少ないレベルで2012年に1米ガロン=3.8リットルで洗浄できるトイレも商品化している。

 トイレの節水は世界的に大きなテーマとなって各国に広がった。欧州連合(EU)やカナダ、メキシコ、ブラジルでも6リットル以下が基準で、中国では5リットル以下(大便器1回と小便器2回の合計を3で割った水量の基準)、シンガポールでは4リットル以下だ。域内の成長国として人口が集中する国を中心に水資源の確保は急務となり、トイレの節水は世界中で喫緊の課題になった。

 米国の法律施行を見据えて節水型トイレの開発プロジェクトに着手していたTOTOは93年4月、タンクのないトイレ「ネオレストEX」を発売した。洗浄に使う水の取水口を、オフィスビルのトイレでよく見られるような水道菅に直結するものにして、ビルより低い家庭用の水圧でも排せつ物を下水管まで流し込めるよう、電子制御技術でバルブの洗浄タイミングを切り替えて、水の勢いを効率よく使いながら少量で洗浄できる「シーケンシャルバルブ方式」という新技術を導入した。

1993年発売のタンクレストイレ「ネオレストEX」は節水型の商品
1993年発売のタンクレストイレ「ネオレストEX」は節水型の商品

 日本で水洗トイレが急速に広まったのは、70年開催の大阪万博を機に各地で下水道が整備されてからだとされる。以後、80年代までの水洗トイレは、高いところにためた大量の水を一気に流すことで、①便鉢(便器のボウル部分)を洗う②排せつ物を排出して下水道管まで流す③便鉢に水をためてニオイを閉じ込める(封水)――という機能を持たせていた。この①~③の機能は現在でも変わらないが、70年代には1回あたり13~20リットルもの水で流していた。

 そんな当時に、新技術を採用したネオレストEXは大で8リットル、小で6リットルでの洗浄を可能にした。当時の最先端だったコンピューター技術を活用して水を制御する技術を、TOTOでは「アクアエレクトロニクス」と呼ぶ。これも80年に発売が始まったウォシュレットが起点となって、TOTOが社内に積み上げていった技術のたまものだ。

新世代のウォシュレット&トイレ開発へ知恵絞る

 91年からネオレストEXの開発チームに参画した林は、ウォシュレットとこのネオレストEXを携えて94年に米国に赴任した。米国各地を飛び回る中で得た経験と情報をもとに、98年からは日本で新しいプロジェクトを率いる立場となった。

 ウォシュレットの刷新プロジェクトでは、新機軸としてデザインをシンプルにして、新しい温水洗浄方式を導入した「アプリコット」シリーズを開発し、99年に発売した。新洗浄方式は節水と節電を実現したもので、「ワンダーウェーブ洗浄」と呼ぶ。洗浄便座としてのデザインをスタイリッシュにしようと、便座の袖にあるお湯をためておくタンクをなくしながらも、たっぷりの温水でおしりを洗える性能の実現を目指した。

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