衛生陶器などトイレタリー製品の国内最大手、TOTOが温水洗浄便座「ウォシュレット」を1980年に発売してから今年で42年。斬新なイノベーションの数々は86年に米国から始まった海外展開でも生かされ、今では世界のプレミアムブランドとして普及が進んでいる。水と電気という感電が起こりうる組み合わせを「アクアエレクトロニクス」と呼ぶ技術革新でクリアし、安全で快適なトイレ空間をつくり上げた。(文中敬称略)

英ロンドンと仏パリに約200軒ある5つ星ホテル。その4割超で、スイートルームなどにTOTOの温水洗浄便座「ウォシュレット」が設置されていることをご存じだろうか。「これを2~3年内に5割以上に増やすことが欧州での目標の1つで、ほぼ達成できる段階にきたと思います」と自信を見せるのは、TOTOヨーロッパ(独デュッセルドルフ)社長の原野宏基だ。
特に両都市の5つ星ホテルの中でも注目を集める「シャングリ・ラ ザ・シャード ロンドン」や「ザ・ペニンシュラパリ」などでは全室にウォシュレットが完備されている。これら香港系資本のホテルグループは地盤であるアジア各地の高級ホテルでも、ほとんどの部屋で温水洗浄便座を設置している。
トイレの最高級ブランドとしてアジア・欧米に浸透
「アジア系のホテルグループでは、当社のウォシュレットを設置できるのはステータスの1つだと認識されています」と話す原野は、30年余になるTOTO勤務で一貫して国際畑を歩き、うち22年をベトナムや欧州に駐在してきた海外営業の専門家だ。

2000年代以降のアジアの経済成長を受けて、アジア資本が世界各地で投資を急拡大させていく中、世界的な大都市であり、富裕層が集まるロンドン、パリなどの最高級ホテルから温水洗浄便座を普及させてきたことは、グローバル市場への波及効果が大きかった。実際、米国資本の大手ホテルチェーンは現在、こぞって高級ブランド系のホテルから温水洗浄便座の設置を増やそうとしているという。
TOTOがウォシュレットの海外展開を始めたのは1986年、米国市場からだった。日本で売れ始めたウォシュレットを現地に持ち込んで販売し、90年には販売会社「TOTO KIKI USA」を設立して拡販に臨んだ。
しかし、初めてウォシュレットを見る現地のキッチン&バスショップ店では、ほぼ全員が「なんだこりゃ?」という反応を示した。94年から米国に赴任して衛生陶器やウォシュレットなどの営業と市場調査を実施したTOTO取締役専務執行役員の林良祐は「便器の上に電気製品が載っていることがまず受け入れてもらえず、いくら機能を説明してもその良さをわかってもらえなかった」と、自著『世界一のトイレ ウォシュレット開発物語』(朝日新聞出版)に書いている。
Powered by リゾーム?