鹿島アントラーズがホームスタジアムとして使用する「カシマサッカースタジアム」(写真=的野 弘路)
鹿島アントラーズがホームスタジアムとして使用する「カシマサッカースタジアム」(写真=的野 弘路)

 1991年の発足時からJリーグに加盟している「鹿島アントラーズ」。メルカリは2019年8月、日本製鉄グループから経営を引き継ぎました。私はメルカリ取締役President(会長)を務めつつ、鹿島アントラーズ・エフ・シーの代表取締役社長をしています。

 メルカリは鹿島アントラーズの経営権を取得する以前、約2年間スポンサーをしていました。そのため、業界の雰囲気や社風について、ある程度は理解していたつもりです。それでも、実際に経営をしてみると、共通点だけでなく大きな違いが見えてきます。

 きっちり数字を分析し、課題を見つけ、一つずつ確実に手を打つ。経営という点ではクラブチームもインターネット企業も変わりません。ただ、大きく異なると感じる点は「時間軸」です。

 インターネット企業はPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルがとにかく早い。フィードバックも早ければ、それに応じた対策を打つのも早い。修正が必要となればすぐに修正し、その結果が出るのも早いのです。それこそがインターネットビジネスの特徴で、強みでもあります。

 一方、スポーツビジネスは試合開催日の間隔が長い。次の試合は1週間後、2週間後とサイクルが緩やかなのです。本来、PDCAは回せば回すほど改善のスピードは速まりますが、それがどうにもこうにも難しいビジネスです。

 もう一つ、異なる点があります。それは「人材の流動性」です。インターネット業界の採用はオープンで、採用の競争も激しい。とにかく人材流動性が高いのが特徴です。一方、スポーツビジネス業界はこれまで閉じた世界でした。既にどこかしらで経験を積んだ人が人づての紹介で転職してくるといったことが多いわけです。

 楽天グループやソフトバンク、ディー・エヌ・エーといったインターネット企業は既にスポーツ業界で成功されています。経営手法そのものも変わったはずですが、インターネット企業の参入で人材の流動性が上がり、やもすれば「村社会」とも揶揄(やゆ)されるスポーツ業界がオープンになり、異なる業界から次々と優秀な人材を呼び寄せていることが成功の要因だと思います。

 コロナ禍で多くのクラブチームが苦境に立たされました。鹿島アントラーズはクラウドファンディングをいち早く実施して、コロナ禍でもギフティング(投げ銭)など新しい施策を数多く実施しました。多くのチームが後にクラウドファンディングを実施していきますが、こうした施策を打ち出せたのはやはり我々が異なる業界から入ってきたからです。

 我々も各所から優秀な人材を採用し、組織に新しいナレッジやノウハウを注入していかなければならないと感じています。

「勝利の再現性」を追い求める

 また、クラブチームを経営してみて感じる最大の違い。それは「コントロールできない変数」が確実に存在するという点です。スポーツは勝負事です。試合の勝敗だけはどうにもできません。成績が悪ければ、グッズ収入やチケット収入に影響が出ますし、リーグ降格の話も浮上します。J1とJ2ではチケット料金もスポンサー料も大きく異なります。

 しかし、経営として勝負事についてはハンドリングできないことが存在します。これまでは自分が頑張ればなんとかなったんですが(笑)。

 経営にできることといえば、収益を上げて強化・育成に投資することのみです。私は「勝利の再現性」と呼んでいますが、資金があれば選手の補強だけでなく、「どのようなトレーニングをすべきか」「そのために必要な機材は何か」といった勝利の確率を上げていくアプローチができます。メディカル面でのサポートも充実できるのです。

 経営はこの「勝利の再現性」を追い求めていくしかないのですが、それでも必ずしも勝つわけではないというところがスポーツの難しいところでもあります。

 いい選手を獲得したからといって勝つわけではない。外部から即戦力となり得る選手を獲得すると、若い選手の出場機会を奪います。即戦力を求めて中途社員を採りすぎ、プロパー(生え抜き)社員になかなか活躍の場が与えられない企業と似ていますね。「獲得しない」ということが育成の一環になるという考え方もできるのです。

 限られた予算の中で、短期的に、かつ、中長期的に見ていかなければならないという点では、企業の採用戦略と似ている部分かもしれません。

この記事はシリーズ「小泉文明の「スポーツビジネスX」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。