パートナーと地元企業、そして地元の住民と全国に散らばるファン――。鹿島アントラーズを経営して気付かされたのは、スポーツはあらゆるものをつなぎ合わせるハブであるということです。

 普段は結び付かない組織や人、モノをハブとして媒介できる希少な存在なのです。分離した存在が結合して掛け合わさることで、新たなモノの見方が生まれ、未知の価値が発生する。それを具現化するために、2020年からある取り組みをしています。

 鹿島アントラーズはパートナー企業のグロービスと共同で「Antlers Business College」というスポーツビジネスの学習プログラムを提供しています。毎年5、6月に開講して11~13回、半年近くかけて学ぶ講座です。コースの前半はベーシックな経営管理プログラムを学び、後半はアントラーズの事例などを通して課題解決を学びます。講師には私を含めたアントラーズ経営陣も参加し、座学だけでなく、実際にカシマスタジアムや茨城県鹿嶋市周辺まで来てもらってフィールドワークをしてもらいます。

(C)KASHIMA ANTLERS
(C)KASHIMA ANTLERS

 狙いはスポーツビジネスを担う次世代の人材創出だけではありません。実践的なケーススタディーを通してスポーツビジネスのベースとなる経営知識を学びつつ、多様な経歴を持つ参加者同士が議論を交わす。最終的にはスポーツビジネスを通して、社会や地域が抱える課題解決のためのビジネスプランを作成してもらいます。

 スポーツというアセットを使いながら、いかにして地域課題を解決するか。これまで2期にわたって開催してきましたが、参加する人材は多彩です。サッカー関係者もいますが、弁護士や不動産デベロッパーなど幅広い人材が集って話し合う。アントラーズファンは意外に少なく、むしろ他チームのサポーターも複数人います。

 有名な現役Jリーガーの応募も複数ありました。選手もセカンドキャリアを考えなければなりません。今の選手たちは次のキャリアについて、コーチや監督だけでなく、スポーツビジネスの経営も視野に入っています。その気持ちや熱意は素晴らしいのですが、シーズンと時期が重複したり、拘束時間が長くなってしまったりするので、選考からは外させていただきました。ただ、こうした思いを持ってくれる選手向けに、また別に学びの機会を創出するのは重要だと思います。

出会わない人と語り合って起こる化学反応

 スポーツビジネスという1つのテーマの下にさまざまなバックグラウンドを持つ人材が集まると、多くの副産物が生まれます。例えば、コンサルティングファームの人がチームメンバーと話をする際に、いつもは通じる話が簡単には通じないという話を聞きました。自分がビジネスパーソンとして、いかに偏った人たちと付き合っていたのかを痛感するわけです。「今まで付き合ったことのない人たちと1つのプロジェクトを成功させる面白さに気づきました」というフィードバックもありました。

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