この記事は雑誌『日経ビジネス』10月25日号で『溶ける軍民の境界線 分断で苦境に立つ日本』『「異形の産業」を脱却 防衛が日本経済を救う』として掲載した記事を再編集して掲載するものです。

日本の防衛産業は苦境に立たされている。企業の撤退が相次ぎ、防衛関連の科学技術予算は周辺国よりも少ない。そんな中、日本の防衛産業を復活させるにはどのような処方箋が必要なのか。1つ目の方策が、防衛装備品の海外移転を広げるための体制の強化だ。海外移転を拡大できれば、平均3%といわれる防衛装備事業の利益率を高める余地が生じる(関連記事:劣化する日本の防衛企業、「異形の産業」から脱却を)。ただ、海外移転拡大の狙いはこれだけではない。

イージスの性能向上に日本も貢献

 防衛装備の海外移転を拡大する第2の狙いは、防衛装備の質を高めることだ。

 海上自衛隊で自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は、2015~16年に日本、ドイツ、フランスの3陣営が争ったオーストラリアの潜水艦導入で、日本が敗退したことを「100年分の進歩を失う損失だった」と嘆く。ユーザーが増えれば、さまざまなフィードバックが得られ、バグの解消や次の進歩に生かせたからだ。

 同氏によると、米海軍は艦隊防空システム「イージス」の性能を向上させるため、迎撃ミサイル「SM-2」を約2700発発射し、データをたくわえてきたという。この性能向上に日本も貢献している。「日本のイージス艦に関わるミサイルの発射データは日米で100%共有し、改善に生かしている」(香田氏)

 日本とオーストラリアが日本の技術に基づく潜水艦を運用することになっていれば、性能向上に資するデータが2カ国分収集できるようになっていた。

 第3は、米国や他の友好国との関係深化である。雑誌日経ビジネス10月25日号の特集記事「次期戦闘機『国産』主導で発進 名を捨て実を取れるか」において、日米による迎撃ミサイル「SM-3ブロックIIA」の共同開発に触れた。日本企業が「ロケットモーター」を提供することで推進力を高めた。

 両国が得意とする技術を持ち寄ることで性能を高めると共に、開発費の抑制が可能になる。香田氏は「技術が初めて日米の接着剤になった事例」と評価する。

「日本版FMS」を求める声

 企業からは「海外移転に興味を持っている」「積極的に捉えている」との声が聞かれる。

 同時に聞こえてくるのは「国が主導してほしい」との意見だ。新三原則は防衛装備の移転を認め得る条件として①平和貢献・国際協力、②国際共同開発・生産、③我が国の安全保障に資する、を挙げる。いずれも国が政策として進めるもので、企業が自社製装備を独自に営業したり、売り先を選んだりする筋合いのものではない。

 あるプライムメーカーの幹部は、第1の方策の具体例として日本版FMSに期待する。「政府が政策に基づいて外国の政府その他との商談をまとめる。それに基づいて我々に装備を発注する。我々は装備を提供することで国の政策を支援する。こうしたかたちが望ましい」

 FMSは「Foreign Military Sales」の略で「対外有償軍事援助」と訳される。米政府が安全保障政策の一環として、武器輸出管理法に基づいて同盟国に装備品を有償で提供する仕組みだ。米政府と同盟国政府が契約の主体となる。「F-35」や「イージス」は米政府からFMSで購入している。

 第1の方策の具体例の第2は、防衛省・防衛装備庁と外務省との連携強化だ。自衛隊制服組トップの統合幕僚長を務めた岩﨑茂氏は「諸外国の大使館は防衛装備に限らず自国の製品を売る任務を帯びている」と指摘する。

 同氏は、航空自衛隊の制服組トップである航空幕僚長に就任した2010年のクリスマスイブを「最低の日」として記憶している。「駐日英大使が私を訪ねたいと言ってきたのです」。大使は一国の代表者。用事があれば空幕長の方が訪れるのがふつうだ。岩﨑氏は「自分が訪ねる」と返事をした。

 しかし、数日後、けっきょく英大使が同氏の元を訪れた。要件は「航空自衛隊と空幕長を訴える」。空自による救難ヘリ「UH-60」の選定がフェアでなく違法だとの理由だった。この選定には英BAEシステムズなどが参加していた。

 英大使が自国企業を支援するため、日本の空幕長の元に足を運んだわけだ。

 防衛装備庁は「各国にある日本大使館の外交官とも協力している。状況は大使館ごとに異なる」という。大使館に勤務する外交官との協力を「制度」として確立するのも1つの案だろう。

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