この記事は雑誌『日経ビジネス』10月25日号で『防衛タブー視のツケ 静かに消えていく企業』として掲載した記事を再編集して掲載するものです。

特集第1回「防衛産業はつらいよ 海自向け航空機の予算ひっ迫、ほころぶ供給網」などでも触れた通り、日本の防衛産業は苦境に立たされている。産業の規模は自動車などには及ばないものの、防衛産業の裾野は広く、他の産業の技術を育てる苗床になっている。ニッポンの防衛産業を守るためには何が必要なのか。

 帝国データバンクによると、2013年時点で防衛関連の企業数は全国で4000社を超える。例えば戦闘機や戦車には1000社以上、護衛艦には2000社以上が関わるとされる。戦闘機一つとっても、エンジンや機体それぞれの完成メーカーをトップに素材や加工、工作機械メーカーなどでピラミッドを形成する。

 国内ではミサイルや戦車、砲弾火薬なども製造しており、民需の工場の片隅で人知れずラインを動かしているものも多い。だが防衛企業からは「防衛事業は絶対数が少なく割高。計画通りに調達されないこともあるため在庫を持つのはリスク。提案時に予定していた価格で固定されてしまうと利益確保は難しい」との声も上がる。収益確保が難しければ防衛産業は弱体化する。

 ここ数年、企業の防衛事業撤退の事例が相次いでいる。20年にはダイセルがパイロット緊急脱出装置を、19年にはコマツが軽装甲機動車(LAV)を撤退。「イラク派遣にも使われ海外でも好評だったのに」とある自衛隊OBは驚く。

 「赤字を免れて事業を継続するために工数調整を行うようになった」。20年1月に住友精密工業が公にした資料の一文だ。同社は19年、過去に防衛省との契約で工数を操作し過大請求していた事実が発覚したが、弁護士による特別調査委員会の調査報告書には、こうした工数調整がすでに1960年代に始まっていたと記載がある。

「一時撤退を考えたものの諸般の理由でできなかった」。これが本当なら脆弱な産業基盤が不正の温床になっていた可能性がある。KYBや三菱電機など、90年代以降の防衛省への水増し請求は20社以上に上る。

 不正ではないが、最近では三菱電機が航空自衛隊のシミュレーションシステムの調査研究の競争入札を77円で落札し「他の業者の圧迫につながる」と批判を受けるなど、異常事態は付きまとう。

防民で技術を共用、「デュアルユース」に解

 日本の防衛産業は2兆円規模と、出荷金額で60兆円とされる自動車産業とは比にならない。だが先端技術を多く取り込むことで周辺産業が鍛えられる面もある。

 日本航空宇宙工業会によると、1970年からの約30年間で、当該産業で生み出された技術が他の産業に移転され、他産業を活性化する「技術波及効果」において、航空機産業は自動車の3倍の約103兆円規模だった。

 実際、現行の戦闘機「F-2」では指向性を持つフェーズド・アレイ・アンテナ技術はETCや物流などで活用されるRFIDタグ、自動車の衝突防止などに活用されたほか、一体成型複合材の技術は旅客機「B787」の主翼に活用された。ほかにも防衛からスピンオフした事例は多い。

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