10月上旬、三菱・三井という財閥を超えたタッグが静かに出航した。防衛産業では久々の大型再編だ。三菱重工業が三井E&Sホールディングス(HD)の艦艇・官公庁船事業の買収を完了し、営業を開始した。冷戦以降、世界では防衛産業の再編がすすんできたが、日本ではほとんど進まなかった。弱体化する防衛産業の苦境を前に、国内防衛最大手の三菱重工業がようやく重い腰を上げた。

三井E&SHDの玉野艦船工場で進水する護衛艦「くまの」(岡山県玉野市、2020年11月、写真:山陽新聞/共同通信イメージズ)
三井E&SHDの玉野艦船工場で進水する護衛艦「くまの」(岡山県玉野市、2020年11月、写真:山陽新聞/共同通信イメージズ)

 「こんなど田舎に三菱が来てくれて嬉しいという人もおれば、三井の100年の歴史が途絶えた、と悲しむ人もいる」。旧三井造船のお膝元、岡山県玉野市を走るタクシーの運転手は今回の三井の艦艇事業の売却について率直にこう話す。

 1917年に旧三井物産造船部として生まれた三井造船の創業の地である玉野は地元に多くの協力工場を抱え、艦艇と商船を建造してきた。毎年夏には三井E&Sの名前を冠した夏祭りが開催され、従業員の憩いの場である地元ホテルの入浴施設の券売機には、通常より安く入浴できる「三井E&S労働組合」の専用ボタンがあるほどだ。

三井買収後、初の進水

三井・三菱連合が発足後初めて進水した船(岡山県玉野市、21年10月8日)
三井・三菱連合が発足後初めて進水した船(岡山県玉野市、21年10月8日)

 2021年10月8日、三菱重工業傘下の三菱重工マリタイムシステムズ(岡山県玉野市)の造船所から1隻の船が進水した。フェラーリも手掛けた日本人デザイナー、奥山清行氏がデザインした神戸大学の練習船だ。実はこの船、三菱重工が三井E&SHDの艦艇等の事業を買収してから初の進水となる象徴的な船だった。

三井と三菱の旗が並ぶ三菱重工マリタイムシステムズの正門
三井と三菱の旗が並ぶ三菱重工マリタイムシステムズの正門

 三井の造船所の門には右に旧来の三井の、左に三菱重工の真新しいロゴが取り付けられ、ポールには三井・三菱双方の旗がはためく。1970年代に設置された、地上100メートル近くあるとみられる巨大なキリンのようなクレーン群は最近になって取り付けられたスリーダイヤのロゴだけが真新しい。

 「両社のいいところを融合すれば、質も上がって技術シナジーも発揮できる」。三菱重工マリタイムの調枝和則社長はこう力を込める。同じ艦艇でも護衛艦が強い三菱に対して、三井は音響測定艦など特殊船が強い。三菱と三井の造船所では抱えられる従業員も昔より減った。艦艇を建造する三菱・長崎と三井・玉野が一体運営できれば「生産能力が足りず受注を逃す場面も減らせる」(三井E&SHD幹部)

旧三井造船のお膝元だった玉野の艦艇工場のクレーンには早速三菱重工のロゴが取り付けられていた(岡山県玉野市、2021年10月8日)
旧三井造船のお膝元だった玉野の艦艇工場のクレーンには早速三菱重工のロゴが取り付けられていた(岡山県玉野市、2021年10月8日)
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