防衛産業が危機にひんしている。アジア太平洋の安全保障が緊迫する中、高額な欧米の装備品輸入が増え、防衛省の予算がひっ迫。そのしわ寄せを国産メーカーが受けている。部品のサプライチェーン(供給網)も撤退企業が相次ぎ、自衛隊に納期通り補修部品を供給できないリスクも出てきた。装備品を民間転用して海外輸出しようにも政府の後押しは乏しい。「防衛産業はつらいよ」。そんな嘆きが聞こえてくる。

 2021年、装備品契約で前代未聞の珍事が起きた。防衛省(防衛装備庁)が水陸両用の救難飛行艇「US-2」について、胴体と主翼(外翼)を年度に分けて別々に発注したのだ。

US-2は海上自衛隊向けの救難飛行艇
US-2は海上自衛隊向けの救難飛行艇

 もちろん製造段階では一体的に組み立てる。だが、国産の装備品を手当てする予算を工面できないという理由で、メーカーの新明和工業が要請を受けた。一体、今防衛産業で何が起きているのか。

部材メーカーが「もうできない」

 神戸市の湾岸沿いに建つ新明和工業の甲南工場。戦前から航空機産業を支えてきた名門でもあり、トタン屋根や太平洋戦争時代の弾痕が残る外壁など歴史を感じさせる趣がある。

 中に入りしばらく進むと2機の救難飛行艇「US-2」が視界に入る。1機は補修を終えた1号機、もう1機は12月半ばの海上自衛隊への引き渡しを待つ新造の8号機だ。

 2機が陣取る様子に事業は順調かと思いきや、機体を指さし説明してくれた田中克夫常務執行役員の顔はどこか浮かない。「この『波消し』の部材をこれからも調達できるかどうか」。

 波消しとは海に着水したとき、しぶきの跳ね上がりを抑える部材。エンジンなどへの浸水を防ぐ役割がある。航空機部品を手掛ける日本飛行機から調達しているが、材料のチタン合金の部材が今後手に入りそうにないからだ。理由はメーカーの撤退という。それだけではない。

 ランディングギア(降着装置)は住友精密工業から供給を受けているが、ギアの金属部材の鍛造を手掛ける住重フォージング(神奈川県横須賀市)が、「もうできない」と音を上げたのだ。住友精密と新明和の調達担当は何度も話し合い打開策を探るが住重フォージング側が翻意しそうにないという。

12月に引き渡す8号機も赤字だ
12月に引き渡す8号機も赤字だ

 「利益が出ない。もうやめさせていただく」。主翼(外翼)や水平尾翼、ラダー(舵=かじ)を供給する三菱重工業も撤退を告げてきた。困った新明和はとりあえず10号機までの供給約束は取り付けたが、その先は自前でやらざるを得ない。

 三菱重工の設備を買い取ろうにも古いうえ、何十億円とかかる。その余裕はない。末端まで含め、10年ほど前まで1500社ほどあったサプライヤーの数は1400社まで減った。なぜ、くしの歯が欠けたようなサプライチェーンになってしまったのか。

続きを読む 2/3 新規発注は5年に1機

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1936文字 / 全文3234文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「さまよう防衛産業」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。