明瞭な沈降が検出された場所では、サーモカルストの指標であるポリゴン地形が確認されており、またそれらはいずれもこの数十年間で地表面の攪乱(かくらん)を受けた場所でした。具体的には、森林が開墾され耕作地や農地になった箇所や、飛行機の滑走路として使われていた場所などが挙げられます。これらの場所は、周辺の森林地帯や攪乱を受けていないところよりも大きくサーモカルストが進行しており、それに伴う沈降も大きいと考えられています。このことは、気候変化を考慮せずに土地を改変すると、その影響はより大きく表れるということを示唆しています。

 一方で、同じような耕作地でポリゴン地形が見えているにもかかわらず、沈降がほとんど見られない場所もありました。こちらは地下氷の量や構造が他と異なると考えられますが、詳細は分かりません。このように、人工衛星データは広域的な解析に優れている一方で、衛星からは分からない情報も多くあります。そのため、現地調査も欠かせません。

 マイヤで実施した現地調査によると、衛星データによる解析結果と現地測量による結果は概ね一致しているものの、衛星からは計測するのが難しい小さな空間スケールのポリゴン地形もあることが分かりました。これらは、サーモカルストによる沈降は干渉SARの空間解像度よりも、もっと小さなスケールで不均一であることを示しています。そのため、人工衛星データ解析と現地調査や他のデータと組み合わせて永久凍土荒廃を評価する必要があります。

新たな知見を現地住民と共有する

 人工衛星データを用いた解析により、サーモカルストによる沈降分布と速度の定量化をより広範囲で行うことが可能になりました。このことは自然科学の分野にとって新たな進歩ですが、こうした情報を現地住民と共有することが重要になります。

 2000年代以降、急速に進んだサーモカルスト現象によって、かつて永久凍土と共生してきた現地住民にとっては、これまでと異なる環境への適応を求められる状況になりつつあります。そのため、私たちの新たな知見を現地住民と共有し、今後の適応策について考えていく必要があります。このような課題に対して、私たちは現地の共同研究者だけでなく、日本の社会文化分野の科学者とも協働して、この取り組みを進めています。最近の永久凍土の変化に関する自然科学の知見を生かし、現地住民と今後について一緒に考えていくことが現在の私たちに求められていることです。

今回の著者:
阿部 隆博(あべ・たかひろ)
三重大学大学院生物資源学研究科・研究員
専門は宇宙測地学・地球物理学。特に雪氷圏の地表面変動現象について、人工衛星データを用いた研究を行っている。
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