人工衛星から数センチの変形を測る
凍土融解に伴う地形変化を調べる手法として、近年注目されているのが合成開口レーダーという技術です。合成開口レーダーは英語でSynthetic Aperture Radarと呼び、その頭文字をとってSAR (サー)と呼ばれます。
SARはマイクロ波を使ったレーダーですが、合成開口という技術を用いることで地上における空間分解能を数メートルにまで向上させています。SARは夜間や曇天でもデータを取得できることから、国土地理院が国土の地盤監視を目的としてSARを用いるなど、国内外の多くの分野で利用されています。
このSARは、センサーからマイクロ波を地表面に向けて送信し、その散乱波を受信することで、地表面の物性に関する情報と衛星─地表面間の距離に関する情報を獲得します。このうち前者はマイクロ波の強度、後者は位相としてデータを獲得しますが、この位相データを用いた解析手法が干渉SARと呼ばれるものです。
干渉SARは、異なる2時期に観測したSARデータの位相差を取ることで、衛星─地表面間の距離変化を数センチの精度で測ることができます(図1)。干渉SARによって生成される画像を干渉画像と呼び、この干渉画像には目的とする地表面変位の他に、マイクロ波の伝播(でんぱ)経路である対流圏や電離圏の影響など、様々なノイズが含まれます。そのため、多数の干渉画像を用いて解析を行うことで、より精度を上げて地表面変位を検出します。このような解析を干渉SAR時系列解析と呼び、現在では地表面変位を伴う様々な現象(地震や火山活動による地殻変動、氷河の流動など)の解明に用いられています。
SARで見えてきたサーモカルストの様子
私たちは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「だいち2号」(ALOS-2)に搭載されている合成開口レーダー(PALSAR-2)のデータを用いて、レナ川中流域における直近約5年のサーモカルスト沈降速度の定量化に取り組んでいます。これまでの解析では、レナ川右岸のマイヤやチュラプチャという市街地周辺で年間1~3センチ程度の沈降速度を検出しました(図2)。
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