本連載のこれまでの記事では、永久凍土の成り立ちや凍土融解が引き起こす様々な影響について紹介してきました。永久凍土環境の変化に関する研究における究極の目標の一つは、どこでどのくらいの凍土が融解しているのかを定量化し、それが現地住民の生活にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることです。しかしながら、東シベリアだけでも700万平方キロメートル以上もある陸域において、地下に存在する永久凍土の様子を現地調査のみから明らかにすることは至難の業です。そこで本稿では、永久凍土帯を広範囲にモニタリングする手法として、人工衛星データを用いた研究についてご紹介します。

永久凍土融解に伴う地表面の変形とその観測

 私たちが対象としている東シベリアは、氷の量が多い永久凍土が広がっています。このような場所では、サーモカルストと呼ばれる、地表面が不均一に沈む現象が起こります(飯島慈裕教授による第1回の記事もご覧ください)。

 サーモカルストの初期では、地表面が不均一に沈降し始めます。こうしてできるのがポリゴン地形です(写真1)。この地形がより深くなっていくと、そこに水がたまり(写真2)、やがてサーモカルスト湖と呼ばれる湖が形成されます。この湖は拡大・縮小を繰り返しますが、長い年月を経て湖水が蒸発し、最終的には大きなくぼ地状の草原となります。これがアラスです(写真3)。この過程は地球の氷期・間氷期のサイクルに合わせて繰り返されると考えられていますが、近年の地球温暖化によって、ポリゴン地形やサーモカルスト湖が急速に発達・拡大していることが分かってきました。

写真1:東シベリアにおけるポリゴン地形。直径が数メートルから十数メートルに及ぶ円形の凸凹が広がっている。2018年9月に筆者撮影
写真1:東シベリアにおけるポリゴン地形。直径が数メートルから十数メートルに及ぶ円形の凸凹が広がっている。2018年9月に筆者撮影
写真2:サーモカルストによってできたくぼ地に水がたまり、湖が形成されつつある様子。2018年9月に筆者撮影
写真2:サーモカルストによってできたくぼ地に水がたまり、湖が形成されつつある様子。2018年9月に筆者撮影
写真3:アラス地形。サーモカルストの最終過程ではこのような円形のくぼ地状の草原が形成される。2018年9月に筆者撮影
写真3:アラス地形。サーモカルストの最終過程ではこのような円形のくぼ地状の草原が形成される。2018年9月に筆者撮影

 東シベリアを流れる主要な河川の1つであるレナ川の中流域は、地下氷の量が多いことで知られており、特に1990年代以降顕著にサーモカルスト現象が観測されてきました。このサーモカルストによるポリゴン地形そのものは容易に観察できるものの、初期のサーモカルストによる沈降速度やその分布を調べることは容易ではありません。

 サハ共和国の首都・ヤクーツクにある永久凍土研究所のチームは、この現象の実態把握のため、長年現地調査を継続しています。彼らは、サーモカルストによる地表面の沈降速度を、水準測量によって求めています。水準測量とは、標尺と呼ばれる目盛りの付いた定規の数値を、レベルと呼ばれる機械を用いて読み取ることで、相対的な高さを測る方法です。この水準測量を毎年行うことで、地表面の沈降量を測定します(写真4)。

写真4:ポリゴン地形における水準測量の様子。作業は2人で行い、1人は写真のように、標尺を持って測定点で待機する。もう1人がレベルを用いて高さを測定する。2018年9月に岩花剛氏撮影
写真4:ポリゴン地形における水準測量の様子。作業は2人で行い、1人は写真のように、標尺を持って測定点で待機する。もう1人がレベルを用いて高さを測定する。2018年9月に岩花剛氏撮影

 この調査によって、サーモカルストによる沈降量は年に数センチメートル程度であることが分かりました。しかし、この沈降量は年々の気温や降水量、積雪量によっても変化するため、沈降速度はこの30年にわたって一定ではありません。1つの例として、2000年代には高温多雨の夏かつ積雪が多い冬が続いたために、地表面付近にある活動層(季節的に融解と凍結を繰り返す凍土)が深くなり、サーモカルストがより速く進行したと考えられています。

 上記で紹介した水準測量は、高精度に高さの変化を調べることができる一方で、調査を行った観測点の沈降量しか分かりません。この水準測量は数メートル間隔で行うのが一般的ですが、その作業を日本の国土面積の20倍以上もある東シベリアに拡張することは現実的には困難です。

 また水準測量は、年間の沈降量を調べるために、毎年測量を行う必要があります。そのような背景から、サーモカルストによる沈降速度を広範囲に調べる技術が存在せず、その評価が立ち遅れていました。そこで私たちは、広範囲に地形変化を調べることが可能な人工衛星データを用いて、レナ川中流域におけるサーモカルスト沈降速度の定量化を行うことにしました。

次ページ 人工衛星から数センチの変形を測る