ガス噴出クレーターの成因を探る

 地下深部の天然ガスの上昇と残存ガスハイドレートの分解によるガスの集中によって永久凍土内に高圧の領域が発生するメカニズムについては、これまで説明してきました。永久凍土帯で地中に高圧の領域を作り出す現象として、もう一つ重要な過程が永久凍土タリク(talik)の凍結です。タリクとは、永久凍土中で凍結していない部分のことです。

 地下氷の塊が融解して永久凍土が地盤沈下を起こすと、その窪みにサーモカルスト湖と呼ばれる融解湖ができます。タリクはこの融解湖の下に形成されます。成長が終わった融解湖はその後干上がることがあり、再び寒冷な気候によって地表面から凍結を始めます。地中のタリクは永久凍土に囲まれていますので、四方八方から凍結が進行するにつれ、タリクの中に存在していた水やガスの圧力がどんどん高まります。この地中からの圧力や氷の成長と貫入によって盛り上がった結果が凍結丘と呼ばれる地形と考えられています。

 ある研究グループは、このタリクが凍結する際に集まった水・ガスの圧力が凍結丘を吹き飛ばす主な原因となったとする説を主張しています(Buldovicz et al., 2018)。その後の第1クレーター周辺で行われた掘削調査(Vorobyev et al., 2019)によって地下20m程度の永久凍土と地下氷の組成が調べられました。得られた試料の化学分析からは、第1クレーター爆発前の凍結丘はこの地下タリクの端に位置しているということも確認されました。この主張は、永久凍土タリクの再凍結による圧力が爆発の原因としていますので、温暖化による永久凍土融解がヤマルの大穴出現を引き起こした可能性と相対する説明となっています。

温暖化との関係は?

 地中で圧力を増す水─ガス─堆積物の混合流体が存在するとき、地中に留める蓋の役割をしているのが地表面の永久凍土です。したがって、温暖化によって強度が低下した永久凍土が数々のヤマルの大穴出現に関係している可能性も十分にあります。

 数々のガス大穴が発見される前年の2012年の夏とその直前の冬は2006年以降最も暖かく、降水量も最大値に迫るものでした(Leibman 2014)。しかし、1~2年の異常高温がすぐに地下60~80m深に存在する残存ガスハイドレート層の分解に影響を与えたと考えるのは無理があります。しかし、より長期間にわたる温暖化の影響である可能性は大いにあります。

 実際に、永久凍土の温度が上昇しているという観測結果があります。発見されたガス大穴周辺の地温観測 (Babkina et al., 2019)によると、1993~2011年の状態に比べて、2012年以降は地表層の融解深が20%深くなり、1947~2013年の間に永久凍土層上端の地温が0.2~1.1℃上昇しました(0.003~0.02℃/年)。これは気温上昇の長期トレンド(0.03℃/年)に対応しています。

 他方、気候の温暖化など、地上からの影響ではなく、地中深くの温度状態との関係が示唆される報告も出ています。地下1000m深の地温が周りの地域に比べて20℃以上高い領域とガス噴出クレーター発見領域が重なっているというのです。ガス噴出クレーターが密集するボヴァネンコヴォ天然ガス田南部は地殻温度が異常に高くなっています(Bogoyavlencky, 2021)。

地球上の氷火山?

 先に紹介したタリク凍結説の研究グループは、ヤマルの大穴爆発が地球上で初めて確認された氷火山である、とも主張しています。氷火山は、氷で覆われた地球外天体で見つかっています。地球上の火山は噴火によって溶岩が噴出しますが、氷火山の場合は極低温の液体状アンモニアやメタンと水などの揮発性混合物が噴出します(Geissler, 2015)。氷火山の噴出は土星の衛星エンケラドスで撮影されました(図12)。他にも地表面が氷で覆われた天体に存在すると考えられています。氷火山のメカニズムはまだよく分かっていませんが、ヤマルのガス噴出クレーターと地球外天体における氷火山を比較することで新たな展開があるかもしれません。

図12:土星の衛星エンケラドスの南極から噴出する物質(Geissler, 2015)。地表面は氷に覆われており、内部の気体・流体が噴出する氷火山現象とされる
図12:土星の衛星エンケラドスの南極から噴出する物質(Geissler, 2015)。地表面は氷に覆われており、内部の気体・流体が噴出する氷火山現象とされる

 氷火山の噴火には、地下に何らかの熱源が必要ですが、第1クレーター形成に対する氷火山説では地中の水分が凍結していく結果として凍結丘の爆発が起こります。それでは、凍結丘がたくさん分布するエリアでガス噴出クレーターが多いのでしょうか? ヤマル半島の凍結丘分布を調べた研究によると、凍結丘の数密度とこれまでに見つかったガス噴出クレーターとの位置にはあまり関係がないようです(Badu & Nikitin, 2020)。

 これまでに発表されたヤマルのガス噴出クレーターに関する研究を総合すると、寒冷気候と永久凍土の存在だけではなく、地下深くの天然ガス床、塩分を多く含んでタリクのできやすい海成堆積物、平板状の地下氷層の存在など、ヤマル地域特有の地質条件とガス噴出クレーター出現との関係が浮かび上がります。

 温暖化の影響であれば、臨界温度を迎える他の永久凍土帯でもガス噴出クレーターが出現するのでしょうか。それともこの現象はヤマル地域のような特殊な条件でしか起こらないのでしょうか。今回は、ヤマルの永久凍土クレーターの謎について現時点までの最新情報を集めて紹介しましたが、今後もまだまだ探求は続きそうです。

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今回の著者:
岩花 剛(いわはな・ごう)
アラスカ大学・国際北極圏研究センター、Research Assistant Professor
シベリア・アラスカ・日本の高山などをフィールドに凍結と氷に関係した自然の変化を調べる。専門は地球雪氷学。兵庫県出身。

この記事はシリーズ「永久凍土の変化から地球のこれまでとこれからを知る」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。